進まぬ『製品』レベルでの産学連携をクラウドファンディングで打破! 塚田先生×Cerevo、イーテルミン製品化へ向けて始動

イーテルミン・プロジェクトの概要

Cerevo DASHの新規プロジェクト『イーテルミン』について、ちょっと語っておきたい。
イグノーベル賞を受賞されたことでも有名な塚田 浩二(Koji Tsukada)先生と株式会社Cerevoが連携して立ち上げたクラウドファンディング・プロジェクトで、大学の研究によって生まれたアイディアを現実的な価格の製品として世に、もちろん世界に向けて発売しようじゃないかという試みである。クラウドファンディングの仕組みについてはこちらの30秒でわかるスライドを参照。つまるところ、大学の研究室で生まれた商品アイディアを、製品化にむけての開発費リスクをクラウドファンディングによって抑えて商品化する、という新しい産学連携の試みである。

イーテルミンの詳細についてはCerevo DASHの当該ページを見て欲しいが、1行で説明すると「具材を口に付けた瞬間に『パクパク』『ガブリ!』といった音が鳴るフォーク&スプーン」である。

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製品版イーテルミンの外装イメージCG

産学連携といえば要素技術ばかりで製品には遠い

きっかけは、日本の大学では素晴らしいプロダクトの種がそれこそ星の数ほど作られているというのに、製品化されることがほとんどないように見えたことだ。プロダクトの研究をなさっている塚田先生に聞いてみたところ、やはりその見かたは間違っていないという。ここでいうプロダクトとは、素材や加工方法・製造装置といったものではなく、最終製品のことを指している。

大学は基礎技術だけやっていればいいのか? あるいは素材、製造方法といった分野だけの研究をやるべきなのか? 私は3年ほど前に塚田先生と出会って、自身が生み出したengadgetならぬ"変ガジェット"を沢山見せてもらって、『いやいやそんなことはないだろう、だってこんなアイディア企業の商品企画じゃでてこないよ』と感じた。ただ、同時に『こんなアイディア、企業...特に大企業は製品化しないだろうなぁ』というのも同時に感じていた。

クラウドファンディング×極小コスト開発×小ロット生産でへグローバルニッチへ

3年前にはなかなかいい解がなかったのだが、時流れて2012年。昨年からクラウドファンディングが流行し、これはいける!と思って塚田先生のところに何かやりましょうとご相談に伺ったのである。プロダクトを作るには設計費、金型費、認証取得費、その他もろもろたくさんの初期費用がかかる。イーテルミンもそうだが、こういったちょっとぶっ飛んだ商品は売れるかどうかを判断することが非常に困難であるため、誰がリスクを取って初期費用を払うんだという話にもなる。だが、ここ数年のインターネットによるモノづくり初期費用の激減っぷりは著しく、(このへんはこちらのエントリーを読んだあとにクリスのMAKERS―21世紀の産業革命が始まるでも読んでみるといい)シンプルな商品であればクラウドファンディングでもそのかなりの部分を賄える状況となってきた。

そこで、クラウドファンディングによる市場性の確認、つまり商品イメージを考える、デモ機を作る、デモをする、Cerevo DASHなどのクラウドファンディング・サービスに掲載する……というところまでを大学側が、その先の量産品の設計開発と販売をCerevoのような企業側が行うという分担ができれば、大学発商品の市場流入が加速度的に行われるのではと考え、実行に移したのがイーテルミン・プロジェクトというわけだ。

ここのところ取材や講演などで繰り返し言っていることだが、これから小ロット多品種展開のものづくりはHOTになる。家電業界は元気が無いとか言っているひとたちがいるが、それは単にワールドワイドで数百万台を売ることで高額な販促&流通コストをペイするというモデルが厳しくなっているというだけ。若い学生さんや研究員さんの柔らかい頭でひねり出した商品、最先端の研究内容が詰められた商品がニッチな層にしっかりと刺さるように企画・製品化されれば、高額な販促&流通コストを支払わなくても『欲しい!』と思った人たちが直販で買ってくださる。世界でここにしかない商品を作ることができれば、英語版Webページを作って展示会にちょこっと出すだけで、アメリカやEUだけではない世界中のあらゆる地域から『売りたい』という声が届く。現にCerevoが売っているLiveShellはユニークすぎる故か毎週のように聞いたことがない国から問い合わせが入り、社内では「XXってどこだっけ?」「えーと、地中海の右あたり?ww」「いや、ロシアの横だろ」といった謎の会話が繰り広げられている。ちょうど先週はリトアニアとトルコからそれぞれ売りたいというメールを頂いたところである。

まぁこのあたりの話は近日しっかりとまとめるとして、とにかく小ロット多品種生産がやりやすくなり、Webでの情報発信のみでグローバルな販売ができる仕組みが整ってきたというわけ。そうなると、あとは初期の開発費・製造費のリスクを誰がどう持つのか、という課題だけになる。そこに今流行のクラウドファンディングが最後のピースとしてパチリとはまったというわけである。

普通のビジネス雑誌だとここまでで『さぁどんな面白い商品が出てくるのか?』で終わってしまうのだが、アイディアを細かい仕様に落とせる人、試作機を作るところまで進められる人というのはそれほど多くはない。さらに、ある程度の金が集まったからといって、小ロットで量産機を作ることができる人や会社というのはこれまたレアである。さらにさらに、出来上がった製品を情報発信して世界で売っていける人や会社というのは輪をかけて少ない。

仕組み、お膳立ては完全に整ったというのに、新しい仕組みゆえにその膳を食らうに相応しい人がいない、という状況なのである。そこで大学×小ロット量産・世界で売る企業という組み合わせでまずは実例を作ってやろうじゃないかというのがイーテルミン・プロジェクトの陣容、塚田先生×Cerevoというわけだ。

注意点

このやりかたで難しいのは、クラウドファンディングに載せる前の段階で製造・販売する会社と綿密な調整を行うことである。すなわち試作機ができて、クラウドファンディングに幾らの価格で載せようか、どんな外装形状で載せようか、ということを考えている時点で、量産バージョンを作る予定の企業を見つけておいて、いったいどれぐらいの費用で開発できるのか、生産したら1台幾らになるのか、利益分配をどうするのか、といった話をすすめておく必要があるということだ。実際に量産品を設計・開発して量産を行い、流通に載せたことがある会社や個人でなければ量産品の設計事情がわからないし、何といっても価格を決めることができない。MOQ*1はいくつで製造してくれるのか、xxx台で製造したらどれぐらいの価格感になるのか、だからこういう素材を使うべきだ、あとこの部分の形状は何度傾けるべきだ...etc といった山のような議論・提案・調整を経てはじめて、価格とおおまかな形状が決まる。関連法規(PSE等)もあるし、PL保険なども含めた様々なリスクヘッジなんかも忘れてはいけない。これらも必要経費に加えなければプロジェクトのどこかで歪がおきるか、最悪破綻する。

だが、経験豊富な小ロット量産品スペシャリストがいる会社であれば、前述した『山のような議論・提案』が数日で済んでしまう。奢るわけではないが、今回のイーテルミンのディスカッションも3回ぐらいで済んでしまったのだから。勿論これは塚田先生がCerevoの量産に向けたコメントを真摯に聞いてくださり、仕様の調整などに手早く合意してくださったからなのだが。

おわりに

若い学生さんや研究員さんの柔らかい頭でひねり出した商品、最先端の研究内容が詰められた商品などが世に出てくることはいちユーザーとしても素晴らしいことだ。よくわからないけどあの仕様にしとけばこの層に売れるだろう的な商品を仕方のない消去法でむりやり買わされることも減るだろう。

コラボ一発目の題材として、イーテルミンはちょっとイロモノに走りすぎたかなぁという思いがなくもないが、宴会での一芸や、プレゼントにちょうどいい一品になるかとは思う。そして何よりも、日本の産学連携における画期的な1歩を実例として作り上げられるかどうか? が残り約75万円が集まるかどうか、という1点に掛かっている。

イーテルミン欲しいな!という方はもちろん、この取り組みを応援していきたいという方、この取り組みが成功してイーテルミンが商品化され世界で売られるようになったら成功事例としてうまく仕事や研究に使えそうだという方も、ご支援のほどよろしくお願いいたします。


ご支援はこちらから

*1:Minimum Order Qty, 最低発注数量

商品写真撮影にも使える!200円静物撮影ボックスにさらに200円追加して影のない美しい静物写真を撮ろう

消費税入れると厳密には210円なんだけどまぁ気にしないでw 以前ご紹介したら1700ブクマとかすごい話題にして頂いた「和尚式撮影ボックス」だが、これに100均アイテムを2点追加するだけで影をほぼ完璧に消した美しい静物写真が撮れますよ、というハナシ。

百聞は一見に如かずということでまずはサンプル写真を。上部照明(トップライト)が1灯、下部照明(ボトムライト)が1灯、合計2灯での撮影である。ホワイトバランス取れてねーよとかそういうツッコミは本題ではないのでなしの方向でw
こういう複雑な形状は必ず下部に影が出るもの。そこを下部照明で打ち消してやるとこんな写真が撮れるというわけ。
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では影消し対策をしなかったらどうなるのか? 同じアングルの比較写真を作ってみたので見ていただきたい。上部からの1灯照明のみで撮影したものである。それでも「和尚式撮影ボックス」のディフューズ効果で相当影を薄めてはいるのだが、どうしたって1方向からの照明だとこのような影は出てしまう。これを打ち消して上記のような影のない綺麗な写真を撮ろう、というのが今回の目的である。
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それでは具体的な方策についての説明を進めていこう。照明器具をもう1つ用意する、という以外に必要な100均アイテムは以下のとおりである。

100均で買ってくるべしなアイテムその1: この手のどこにでもあるプラスチック製半透明バスケット。

100均で買ってくるべしなアイテムその2: 乳白色の使い捨てまな板


あとはバスケットの取ってを外して逆さにし、撮影ボックスの被写体置き場の下にレイアウト。光を拡散するためのまな板をバスケットの上に敷き、上部照明とは別の照明を用意してバスケット内にほうりこむだけ。ちょっとわかりにくいので写真で説明する。

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↑これがベースとなる撮影ボックス(作り方はこちらのエントリ参照

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↑こんな感じで被写体置き場の下にバスケットを配置、バスケット上に使い捨て乳白色まな板を重ねて準備完了

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↑上部照明をあえて消して下部照明だけつけると、被写体置き場が下から照らされているのがよくわかる

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↑上部照明とあわせて点灯すると、下部照明はあまり目立たない。が、これがキレイに影を消してくれるのである


..........簡単でしょう? まぁ、騙されたと思って200円(税込210円)払って試してみてほしい。きっと美しい静物写真が撮れてびっくりして頂けるかと思う。コツは照明を『ちょっと離し気味に当てる』こと。ボトム・ライトはあまり強く当てるとお化けライトになってしまう。お化けライトとは、懐中電灯をアゴの下から当てて『うらめしやー』とやる、あれである。下からの照明が強いと、お化けのようなおどろおどろしい絵になってしまう、ということ。もし下部照明が強力すぎるなと感じたら、照明から撮影ボックスまでの距離を遠ざけるか、コンビニの乳白色ビニール袋を2重か3重照明器具に巻いてやるといい。*1


下部照明を買う際には上部照明と色温度をあわせるのを忘れずに!
失敗すると下記イングラムの写真のように上部(あるいは下部)だけがピンクがかったりします。
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最後にシュール*2な影消し写真例を挙げて締めたいと思う。もちろん、左が影消し用下部照明ナシ、右があり、である。こうやって比較すると違うよね、というのがよくわかると思う。
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....追記。ここまでずっと影消しについて話を続けてきたものの、下部照明は何も影消しのためだけではない。下記、遠坂凛の写真をみてほしい。左がトップライトのみ、右がトップライトに加えてボトムライトを少し当てたもの。右側のほうが艶やかというか、いきいきとした感じで見えはしないだろうか。こんな感じで静物写真撮影においてボトムライトは影消しだけではない効果が得られる。たった数百円、ぜひ一度トライしてみてほしい。 ※本作例においてうっかり左はF6.3、右はF13で撮ってしまったのでApple2Appleになっていないが、そこはツッコミご容赦いただきたい

遠坂TOPライト遠坂凛 トップライト&ボトムライトの2灯で撮影
※本エントリ内で紹介した写真作例はすべてTAMRON SP AF 90mm F2.8 172Eを付けたCanon EOS Kiss X3にて撮影

*1:白熱灯だとビニルが溶けてしまうので、LEDや蛍光灯といった低発熱電球を使ってほしい

*2:シュールという言葉の典型的な誤用例だが、あえて使っているのでツッコミなしの方向で

iPhone5と4Sのカメラ比較。ちょいワイド化、コントラスト比とAWB精度は向上。HDRは派手さがなくなった

iPhone4SからiPhone5に買い替えたので、カメラ比較をやってみようということで違いがわかりやすい静物にてテストしてみた。光源は2400kの蛍光灯×2。これを以前のエントリで紹介した撮影用ボックス経由で照射して撮影している。手振れの影響など出ぬよう、クランプを使って三脚に固定しての撮影とした。尚、4SはiOS5、5はiOS6を使っている。

iPhone5 HDR-ONiPhone4S HDR-ON
iPhone5 HDR-ONiPhone4S HDR-ON
HDR同士で比べると、iPhone4Sはかなり派手なエフェクトをかけていて、コントラスト比も高い。シャープネスもかなり効いている。対するiPhone5は大変おとなしく、これほんとにHDR効いてる? と疑ってしまうぐらい。まぁ好き嫌いのある部分なのでどっちがいいとは言わないが、4Sのほうがより『HDRらしい』写真が撮れるとは言えるだろう。上記サムネイルではまったくもってわからないと思うので、下記比較画像を見ていただければと思う。左がiPhone5、右がiPhone4Sだ。 iPhone5/4S HDRの違い
iPhone5 HDR-OFFiPhone4S HDR-OFF
iPhone5 HDR-OffiPhone4S HDR-Off
続いてHDR-OFFでの比較。iPhone4SではWBをうまく合わせられず、大分と赤みがかってしまっている。また、白っぽく霞がかったような絵となってしまった。これは何度か同一条件で撮影しなおしても変わらずであったことを付け加えておく。その際のサンプルはFlickrにSETを作っておいたのでそちらで見ていただければと思う。 コントラスト比についてはiPhone4Sが低すぎ。iPhone5のほうはコントラスト比が高く、シャッキリとした絵となっている。 わかりにくいのでこちらも部分拡大画像を載せておこう。服の端にあたるギザギザ部分と、ネクタイのグラデーションを見てもらうとコントラスト比が引き上げられているのがよくわかると思う。わずかにシャープネスも掛けているのかもしれない。左がiPhone5、右がiPhone4Sだ。 iPhone5/4S HDR-OFFの違い 以上、簡単ではあるがiPhone5iPhone4Sにおける静物撮影比較である。まとめると以下のような変更となる。まぁ正直なところ『フツーの人にはちょっとワイドになったかな、ぐらいで違いがわからん』というのが正直なところ。まぁ気になるマニアな人は原寸大写真を置いておいたので確認するなりご自由にどうぞ。

  • AWB(オートホワイトバランス)の精度がUP
  • レンズが変わってちょいワイドに(35mm相当だったレンズが33mm相当に)なった
  • HDRの効果が抑えられ、派手さがなくなった

※どーでもいいけどiPhoneでフィギュア写真って結構いけるのね、固定めっちゃ大変だけどw

最後におまけてEOS Kiss X3 + TAMRON 90mm F2.8マクロにて同一条件(照明は変えず、カメラ位置は変更)で撮影したサンプルも置いておく。比較用にどうぞ。
Kiss X3+90mm単焦点マクロ

SBM版iPhone5は海外SIMを使うことができないタイプのSIMロックだった(ソフトバンクモバイル版)

iPhone5はまったくもってわくわくしない端末で、HDD容量とプロセッサが変わってちょっとデザイン変更かかった新型ノートPCが出ましたよってレベルの話でしかないんだけれど、まぁ仕事なんで買いましたよ、ええ。で、iPad3の3G版がドコモロックだったのでiPhone5 ソフトバンクモバイル版もドコモロックであってSIMロックではないだろうと買ってきたわけですが、これが残念ながら従来通りのSIMロックでしたよ、という報告。

あと、従来のSIMロックとは挙動が異なります。従来のiPhone4/4SのSIMロック板では『不正なSIM』と表示されるが一応WiFi環境で使うことはできるという状況でしたが、iPhone5(iOS6によるものかも?)では許可されたSIM以外をぶちこむと、一定時間(1分ぐらい)で強制リブート(厳密にはRespring)がかかり、端末が未アクティベーションであると表示されます。で、アクティベーションしようとすると、このSIMじゃアクティベーションできませんよと下記画面が出て終了。

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面白いのは、ここでSIMを抜けば『SIMなし』状態でアクティベーション済端末として使えることです(笑) 実際にアクティベーションされていないわけではなく、アクティベーション済みなんだけれども新SIMを検知したら一度サーバに確認しにいって、やっぱり不正だよってことであればその画面でエラーを出す、という挙動のようです。

尚、試験は神州行(中国SIM)、中華電信(台湾SIM)、Doc○mo SIMの3種類で試験。全て同じ結果となりましたとさ。
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....ま、シャッター音はするわ海外で現地SIM使えないわなクソ端末は綺麗に使ってヤフオクで売り飛ばして香港出張時に香港版に買い替えでFAですな

大手メディアが報じない、新型MacBook Proの重要なデザイン変更点は『コネクター』にあり

去る2012年6月に発表された新型MacBook ProRetinaディスプレイ搭載と薄型化ばかりがフィーチャーされるが、筐体にはデザイン性を大きく向上させる重大な変更点があった。が、各PC系メディアはこれを取り上げない*1。気づいてないんかねー?というレベルで。ライター諸氏はAppleのデザインは今度もクールだなんてぼんやりしたことを書くんじゃなくて、クールに”見えるように”こういうことをやってきているんだよってことを書いていただかないと。もっとも、プロダクトの設計やデザインの専門家ではない方が評してることが多いので致し方ないのだろうけれども。本Blogでは今後も気になる製品の細かな設計上・企画上のポイントみたいなものを取り上げて行きたいと思う。

・・・・閑話休題。まぁよい、とにかく大変更があったんだと。で、それは何か? というと基板に実装されている各種IO類のコネクタ*2が『デザイン性向上目的で』一新されたことである。『USB3.0に対応したからコネクタが変わるのは当たり前じゃん』なんて思った輩は糞して寝ろw 従来から採用されているThundervolt & DisplayPortのコネクタ、SDカードスロットのコネクタを含め、USBコネクタも3.0対応したこととは全く別方向で設計変更され、いちからデザインされなおしているのである。

それによってデザイン上どういった変更点があったか?は、下記の写真をみてほしい。

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上記がMacBook Air 2011年版。コネクターの奥まり具合というか、アルミ製の筺体部の厚み(図で赤く示した部分)に注目。

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上記がMacBook Pro 2012年版。コネクターの奥まり具合(図で赤く示した部分)が旧モデルに比べて大幅に大きくなっているのがわかるだろうか。実測値でほぼ倍である。このコネクターそのものについて語り始めるとそれだけでまた長文Blogエントリーが1本かけてしまうので割愛するが、どんなコネクタであったとしても、筺体を削り出しの一体パーツで作っている以上、コネクタが奥にあればあるほどデザイン上の統一感は増す。見る角度によってコネクタ部が見えない確度というのがあるが、コネクタが奥まっていればいるほど『見えてしまう確度』が限定されるからである。

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単に奥に配置しているわけではない。当たり前だがDisplayportやThundervolt用オスケーブルの突き出し量は世界標準規格なわけで、コネクターを新規に開発し、コネクターのエラ部分(上図参照)を削り取った2012年型MacBook専用の特注品を作りなおさなければこんな芸当はできないのである。

続いてSDカードスロットを見てみよう。

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上記は旧MacBook ProのSDカードスロット。

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上記は2012年版MacBook ProのSDカードスロット。こうやって比べると驚くほど『奥まって』いることがわかるだろうか。


SDカードのほうが計測しやすかったので具体的な数値を測ってみたが、旧MacBook ProのSDカードスロットの奥まり具合は3.15ミリメートル。新MacBook Proの同一箇所は何と6.19ミリメートルと、約2倍もの奥まり具合を実現しているのである。Thunderbolt/Displayportも同様に約2倍、USBコネクタも同様に約2倍の奥まり具合であることが確認できたことから、新型MacBook Proは外装上のデザイン性を向上させるべく各種IOコネクタを奥まって配置することを決め、コネクタ類を全て新型専用品として再設計して起こし直した、といえるだろう。*3


皆さんがなにげなく見て、何気なくかっこいいね、と感じたりしているものには必ずかっこいいなりの理由がある。こんなちょっとしたコネクタと筐体の合わせ具合ででも、見た時の印象は大きく変わる。個人的にApple製品は好きではないが、このデザインに対する拘り具合は敬意を払うに値する。さすがだ。でも、そんな私の愛機はZenbook! Ultrabookもっと頑張れw

*1:取り上げてたところがあったら教えてください、例外として追記します

*2:厳密にはレセプタクル。あとタイトルはわかりやすくコネクターと書いたけどコネクタと表現したい派なので本文ではコネクタで統一w

*3:厳密には3.5mmヘッドフォンジャックのみは旧型と同じ

ハードウェア・ベンチャーを"軽く"始めるための5つの技術トレンド

大それた表題だが、答えだけわかればいい方にはは140文字以内で済む。

  1. クラウドファンディング
  2. 3Dプリンター
  3. JetPCB
  4. オープンソースハードウェア
  5. おめぇさんの気合(トレンドでも何でもないけどw)

である。タイトルは釣りではないが、ベンチャーってのは釣りワード的何か。これは嫌いなキーワードなので以下「スタートアップ」と書く。

クラウドファンディング

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手前味噌なCerevo DASH*1はさておき、Kickstarterはあまりに有名だが、今北産業な方にむけて簡単に解説。クラウドファンディングとは『こんなプロダクト(ここではHW)作ってみたいんだけど、欲しい人いる?hoge円出してくれる人がたらその金使って今から作るよ』と出品者が問い、『ほすぃ!hoge円出すから作ってくれぃ』という人(ユーザ)が一定人数集まれば商品化を開始、お金を払ってくれた人に商品を届ける、という仕組みだ*2。あ、どーでもいいけどメディアが騒いでるサーバとかWebサービスの「クラウド」とは別ね。あっちはCloud、こっちはCrowd(群衆)。欲しい!って人たちの少しづつのお金を集めて将来の「価値(完成したハードウェア)」を作る、一種元気玉的な仕組みだから。


ここまでがハテナマークだらけ、という方にむけて100倍わかりやすく説明するなら、最少催行人数が設定された旅行会社のツアーパッケージだと思えばいい。価値(この例だと楽しい旅行)が得られるかどうかは『俺、いきたい!だから金払って予約するね』という人が最少催行人数ぶん集まったら実施が決定する。払う!って人が集まらなければツアーは中止され、全額が返金されるはずだ。なぜなら、最少催行人数以下ではボリュームディスカウントが効かず、ホテルや航空券、ツアーコンダクターの人件費をペイできないからである。Cerevo DASHKickstarterといったクラウドファンディングも仕組みと論理は同じである。そして、対価を払ってから価値(旅行、ね)が得られるまでは結構な時間がかかる。ゴールデンウィークの海外旅行は4−5ヶ月前から予約しないとなかなか取れないけど、支払いは3ヶ月前に要求されるはず。そして、予約確認書という紙切れに何十万円という金を払うのだ。勿論、その紙きれは3ヶ月後に飛行機とホテルとツアーコンダクターという形で「届く」。

話をハードウェア×クラウドファンディングに戻そう。大多数の電子機器の外装に使われているプラスチックは材料費こそ安いが、プラスチック成形部品を作るには原材料を射出成形するための金型を作る必要があり、それには数百万円からものによっては一千数百万円もの初期投資が必要だ。先の例でいうツアーコンダクターの人件費である。ホテルや航空券にあたるのはハードウェアに組み込まれる電子部品やPCB(電子基板)。数百個、ものによっては数千個まとめて買わなければびっくりするほど割高になってしまうし、まとまった数量をコミットできなければ売ってすらもらえないものもある。だから、最低生産数量(以下、MOQ。Minimum order quantityの略)を一定量に設定しないと、現実的な価格で提供することは勿論、完成させることすら困難になるのだ。

1万台作れば原価5千円で作れるものが、1000台だと8千円になり、100台だと2万円になり、10台だと2.5万円になる*3。ツアーの例でいう最低催行人数に相当する最低生産数量が定まっていれば原価を予想しやすくなる。

そろそろまとめよう。クラウドファンディングサービスはまさにハードウェアを開発・生産するため生まれたようなもの。事由は、最低生産数量をコミットできること、生産前に必要な費用が入ってくることの2つ。

前述した例で1000台作ると仮定したら仕入れ値は800万円。これに金型代の500万円、その他設計費の200万円をあわせれば1500万円は集めなければ持ち出しが発生するという計算になる。クラウドファンディングサービス上で『俺が考えたこのクールなハードウェアに1.5万円を払ってくれるという人が1000人集まったら生産するぜ!』と募集をかければ、一円の持ち出しもなく夢のハードウェアを作ることができるというわけだ。

おっと、一番大事なことを忘れていた。クラウドファンディングで1000人集まったプロダクトを世界各国のディストリビューターが放おっておく訳がない。その後1個1.5万円で世界各国にて販売すれば、台あたり7000円の利益が出続けるのである。

※式を簡略化するためにディストリビューターのマージンは考慮してない

3Dプリンターと出力サービス

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クラウドファンディングを上手く使えば...と簡単に言ったものの、実際に動くプロトタイプ(試作機)がないプロジェクトには「欲しい!」と言ってくれる人が集まりにくい。そりゃぁそうだ、購入者からすれば実現可能性すら怪しく、実際にどういった動作をするのかすらわからないプロダクトにお金なんて払いたくない。チップ程度の金額ならよいかもしれないが、1万円を超えるような金額となればなおさらだろう。

試作機をどう作るか? これも従来は費用が課題だった。家電展示会で大手メーカーや通信キャリアがコンセプトモデルのモックアップを展示することはよくあるが、あのモック、動かないくせに80万円とか100万円とかするのである。クラウドファンディングで資金集めをする前の段階で試作機が必要なわけだから、このコストは自腹で払う必要がある。『スタートアップなんて一撃必殺。この試作機がユーザーのお眼鏡に叶わなければあきらめる!』という無謀な人はどうぞ貯金を切り崩して本職のモックアップ屋さんに頼めばいい。

しかしながら、この試作機が驚くほど安く...そう、たった数万円で出来るのであれば、その数十万円で何十回もトライすることができるのである。ここでいうトライは、商品Aの試作機をクラウドファンディングで世に問うてみたが鳴かず飛ばずだったので、つぎは商品Bを、だめならCを……とトライすることである。こんなローリスクなトライはない。


で、どうやって数万円程度でクールな試作機を作るかだが、そこで3Dプリンターを使うのである。3Dプリンターとは、あなたが描いたCADデータを食わせると、プラスチックでできた立体物をコンマ数ミリ単位の精度で全自動で作成する特殊な立体物出力装置である。その仕組についてはWebに専門家の解説が山ほどあるので割愛するが、とにかく思った通りの立体物を簡単かつ短時間(といっても数時間から十数時間)で作り上げてしまえる技術である。これがここ数年でびっくりするほど性能が向上し、価格もこなれて一般的になってきたのである。とはいっても最新型の3Dプリンターは数千万円もするので個人やスタートアップ企業が購入することは難しい。が、3Dプリンターによる立体物出力サービスというものがあり、誰でも手軽に3Dプリンターによる出力サービスを受けることができるようになってきたのである。数千万円の3Dプリンターを企業が購入し、1回の出力で数万円、といった値段設定をして3Dプリンター時間貸し商売をしている業者さんが何十社と登場してきたためだ。

つまり、3Dプリンター用のCADデータを作ることさえできれば、たった数万円で試作機の外装を作ることができてしまうのだ。参考までに、Cerevoクラウドファンディングで欲しい!という人を募集している巻き尺付きiPhoneケース「iConvex」の外装はたったの2万5千円で作ることができた。個人で何度もトライできる、といった意味がおわかりだろうか。

※右の写真は3Dプリンター Objet24で出力したiConvexの第二弾試作筐体


JetPCBで激安基板作成

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『俺が作りたいのは電子機器。外装が安く作れたって電子基板をいちから試作するには何十万円というコストがかかるんでしょ?』という意見も既に時代遅れだ。

百聞は一見にしかず、ChromeユーザーもFirefoxユーザーもここはぐっと我慢してIEを使って http://JetPCB.com/ に今直ぐアクセス。ん?IEがないOSを使ってる? そんなアルミ製のリンゴをしゃぶってるガキは帰りなw  ……おっと、誰かにキーボード入力を乗っ取っられたようだ、失敬。


で、Factから行くと巻き尺付きジャケット「iConevex」の基板は、JetPCBにてたったの2万円で作れてしまうのである。外装とあわせて4万5千円程度。これに細かな部品を通販サイトで買って数千円。

そう、iConvex試作機の持ち出しコストはたったの5万円前後なのだ。プロダクトデザイナーとハードウェアエンジニア、組込みソフトウェアエンジニアが集まって「いっちょやってみようぜ」となったら数万円でクラウドファンディングサービスに掲載するための試作機ができてしまう。個人や資金のないチームでも数十回トライできる、と言ったのはこういうことなのである。

※写真はiConvexの第二次試作機PCB。JetPCBにて作成したもの

OSHW(オープンソースハードウェア)

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前項のコストからは、回路設計の手間などは省いた。しかし、ゼロから回路設計していてはかなりの時間がかかるし、ましてや外部業者に頼むとなるとものすごいコストがかかる。

そこでオープンソースハードウェア(以下OSHW)だ。3000円から1.5万円ぐらいで何種類ものOSHWが出まわる、いい時代になった。作りたいものに合わせたOSHWを購入し、必要なIOを足し、不要なIOをリワークで削る。組込みソフトウェアを乗せて動作確認がきたら、公開されているとなっている回路図やガーバーデータをベースに自分たちが作りたいオリジナルな電子基板の設計図を作ればいいのである。

ゼロから作るよりも調整・修正のほうが楽なのは言うまでもないだろう。MSP430 LaunchPad、Aruduino、mbed、LeopardBoard、BeagleBoard、BeagbleBone、PandaBoard、そしてつい最近リリースされた最強のOSHWと名高いRaspberry Pi。ここにあげた有名なOSHWだけでも、ボタン電池1個で動くマイコンレベルから、スマートフォンが作れるクラスまで多様なラインナップがある。これら8つのOSHWのデータシートとにらめっこして、作りたいものに合ったOSHWをチョイスするところからはじめれば、開発工数・費用を大幅に削減するだけではなく開発に必要なリードタイムを大幅に短縮することができる。楽になったもんである。

右の画像はiConvex初代試作機の中身。オープンソースハードウェアであるArduino nanoを中核とし、ホームセンターで買ってきた巻き尺を分解して流用した巻き尺メカと、追加センサーであるフォトリフレクタを追加している。


勇気と気合

えらい長文のエントリとなってしまったが、あと必要なのはチャレンジしようという勇気と成功させるぜ!という気合、そして良きアドバイザーだけだ。上に書いたことは重要なピースの大半に言及したが、実際はそんな単純なもんじゃないし、いくつか(公開文書として残すには)センシティブな項は抜いてある。

クラウドファンディングにガジェットを出してチャレンジしてみようという人は、このエントリーを見せて『和蓮和尚はAとBとCを抜いてたけど、そこはこうやって対応するのがいいよ』といったアドバイスがもらえる人と一緒にやるべきだ。逆にこのエントリーをプリントして見せて、こんなに簡単な時代になったんで僕らと一緒にやりましょう、なんて言ってくる連中とは距離をおいたほうがいい。

最後が手前味噌で申し訳ないが、クラウドファンディング・サービス『Cerevo DASH』の問い合わせフォームから提案してもらえれば、いつでも力になるつもりだ。ハードウェア・スタートアップがこんなにもリーンに開始できる時代になったのだから、是非とも一緒に面白い世界を作って行きたいものである。クラウドファンディングの仕組み部分はCAMPFIREさんとPayPalさんのタッグが強力にバックアップしてくれているし。

当然のことだが、海外のクラウドファンディングサービスで何千万円と集めて面白いハードウェアを世に出そうとしている英語圏のガジェットクリエイターの連中だって恐れるに足らずだ。なぜなら使っている仕組みは全く同じなのだから。あとはアイディアと完成度で勝負だ。

おまけ:プロモーションビデオについて

Clipboard03Kickstarterで金を集めてるプロジェクトにはこれでもかというほどカッコいいプロモーションビデオが貼り付けられていて「あんなカッコいいプロモーションビデオなんて撮れないよ!」と感じるかもしれない。

が、それすら安く簡単に解決できる方法がある。10万円程度でプロモーションビデオを作ってくれる業者だってあるし、1万円程度の動画編集ソフトと数万円のデジタル一眼レフがあれば結構簡単なもんだ。大変手前味噌で恐縮ではあるが、iConvexのプロモーション動画は3年落ちのデジイチ EOS Kiss X3を使って、ハードオフで1500円で買ってきたぼろいビデオ用三脚を組み合わせてビデオ作成経験が全くない人*4が1万円のビデオ編集ソフト*5で作ったものだが、はじめてでもこれぐらいは作れるものである。

とはいえビデオ撮影・編集のところはクラウドファンディング向けならではのTipsがありそうな感じなので、近日中にクラウドファンディングで金を集めてる動画の分析と、どうやったらそういう動画が自分で作れるか?をネタに書いてみたいと思う。新エントリーができたらTwitterで告知するので、 @warenosyo をフォロっておいてもらえればと思う。


お願い

iConvexはあと2日で終了期日を迎えるのだが、後ほんの少しのご支援が集まれば製品化されるというところまできている。日本初のガジェット・クラウドファンディング事例として、何としてもこやつはプロジェクトを成功させて製品を世に出してやりたい。iPhone持ってる人は是非ご支援を、持ってない人はブクマなりRTなりで支援してもらえると嬉しい。何卒宜しくお願い致します。
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以上ッ

※しかしこれだけ書いても5000wぐらいなのね。商業誌で1ページ3000wの10ページ特集とか書いてた学生時代が懐かしい...。老いたかなw

*1:Cerevo DASHの課金回収システムはCAMPFIREさんと協業して提供いただいています。 Powerd by CAMPFIRE

*2:わかってる、わかってる。Crowd fundingはもっといろんな使い方があるってことは、ね。典型的なHWの事例をわかりやすく今北産業な皆さんに向けて書いてるんだからそこは突っ込むな、なw

*3:わかってる人向けでいうと、1000台以上は型ありで100台以下は削りとかで作るイメージでの価格感

*4:俺w

*5:Cyberlink Power Director

アメリカで電子機器を販売するためにやったことまとめ 〜2/1から米国でLiveShellの販売を開始〜

シリコンバレーベンチャーマンセーみたいな風潮が好きだの嫌いだの、アメリカに行って起業みたいなのがいいだのわるいだの、グローバルに通じるサービスだのどーなどまぁ連日アメリカ×ベンチャー×日本みたいなワードで盛り上がってるのを横目に、Cerevoは粛々と日本発テク系スタートアップとしてUSAでもモノ売るように動いてて、1月のCESで展示やって、2月からLiveShellを販売開始しましたよと。

http://www.facebook.com/warenosyo/posts/168716953239905


んでまぁ、思った以上に「アメリカでモノ売るにはどーすりゃいいんだ?」って情報が転がってないので、これから起業するなり今すでに立ち上げ済みの企業でアメリカ向けにモノ出荷しようと思ったらどーしたらいいの?って人も多いだろうからやったことを簡単にまとめてみる。

製造段階/開発段階でやったこと

  • FCC取得
    • EMC対策としてのFCC
      • FCCには2種類あって、EMC規程としてのFCCと電波利用製品としてのFCC。前者は微弱な電磁波みたいなもので、アナログテレビと一緒のコンセントに挿したらテレビの映像が乱れる機器とかがたまにあるんだけど、ああいうのを規制する仕組み。日本ではこれがVCCIといって任意なので認証取らなくても売って良いのだけれど、アメリカではNG。他の機器に変な影響を与えたりしませんよという証明を取らないといけないので、これを取る。どうやって取るかというと、そもそも設計段階でそういった毒電波を出さないように回路設計・アートワーク・メカ設計をきちんとしておくというのが大前提。外部の電気屋を使うときは、FCCクラスBを取れるような設計とすること、みたいな仕様書を最初から定義して、試験に落ちたら設計瑕疵じゃないの?と交渉できるような契約書・発注書にするよ、と最初から話しておけばシンプル。まぁ飲んでもらえるかどうかはさておき、マストなんだね、というのが最初から通じていると時間も金も節約できる。
      • と、やっておけばすんなりいくだろうと思っていたら、FCCクラスAは通るけどクラスBのEMC試験をどーしても通らず、日本での発売はすでに終わっているんであとはFCCに書類出せば終わりという状況だったはずなのにもしや基板改版をして追加開発費投入しないといけないか、どうか?というところまで追い込まれてばたばたやって @boonies が焦燥しつつあれこれやってくれた結果何とか通ったというハプニングがあった。こういうのがあるから認証系は怖いんだよな....と。
    • 電波法?対策としてのFCC
      • 前述のEMCとは別に、積極的に電波を出し受けするような機器はFCCの中での日本でいう電波法にあたる部分で問題ありませんよーという認証を取らないといけない。無線LANや3Gなんかを使う機械の場合で、LiveShellは無線LAN搭載しているのでここに該当。これ、設計がシビアでミスれば試験通らないばかりか性能が出なかったりとやばい部分なので、CerevoではアリモノのWiFiモジュールを活用する方法を取った。既にFCC/CE(ヨーロッパの規格)を取得済みのUSB接続型WiFiドングルを仕入れてきて添付する、という手だ。LiveShellのWiFiモジュールがどこかで見たような形をしているのも、取り外しできるのも、このためである。スタートアップは端折れるところはとことん端折ってコストだの手間だのを削っていく。
  • ACアダプタのUL/cUL取得
    • ACアダプタを使う機器は、ACアダプタがUL認証を通っていないと売れない。厳密にはアメリカ全土でULがマストというわけではないのだが、州によってマストだったり、特定地方にてマストだったりするため全米の誰が使うかわからない状況では「必須である」と言って差し支えないだろう。カリフォルニア州は特に厳しい制限(カリフォルニア州エネルギー規制)をかけているので、それらの制限をクリアするようなACアダプターを調達する。これは別に開発するわけではないので、調達時にちゃんと証書を提出してもらってUL取れてるよね? とCheckすればOK。
  • 英語版パッケージの制作
    • 当たり前だけれどちゃんと制作。ネイティブイングリッシュスピーカーによるProof reading(推敲)をきちんと入れ、違和感ない文章となるようにした。ベースの文章は日本側で制作。お金があればアメリカ人デザイナーにデザインさせなおすんだけど、さすがにスタートアップでそんなことやってられないので日本人デザイナーの @microcoppepan ががんばった
  • 英語版マニュアルと保証規定の策定
    • アメリカは訴訟社会なんでこのへんはちゃんとしないとね、ということでちょっと高いがアメリカの弁護士に保証規定はちゃんと見てもらって英語版ペーパーマニュアルと保証書を作成。ペーパーマニュアルはパッケージと同じく日本で作ってネイティブスピーカーの推敲を受けるという形にした。オンラインマニュアルも基本的には同じアプローチだけれど日本人英語であってもいいから分量を充実させよう、という方向にした。オンラインマニュアルはあとでいくらでも修正がきくので。
    • 悩ましかったのは用語の選定。Proof readingと翻訳あわせてお願いしたら「有線LAN」が「Wired LAN」とかに翻訳されて帰ってきちゃって、いやいやそこは「Ethernet」だろって話なんだけど普通の翻訳やる人はそのへんわかんないよなーと。
    • パッケージもそうなのだけれど、紙はスペースが有限。んでもって日本語は漢字というスーパースペシャルなツールが使えるのでたった4バイト(漢字2文字)に複雑な意味を込めることができる。そんな日本語ベースのパッケージや紙マニュアルを英語化しましょうとやると、スペースが全く足りない。結果、日本語版より若干情報量を落としてフォントサイズも小さくして何とか詰め込むことができたが、今度やるなら先に英語版作ったほうがいいなぁこりゃ、と思った。

開発とは別で手配・調整したもの

  • 輸出入手続き
    • これは専門外だしコアコンピタンスではないのでLiveShellの製造委託先に丸投げ。Cerevoは一切ケアしないよ、という方向。......の、つもりだったんだけど日本への輸入時はお任せできたんだけどアメリカへの輸入に際しては結局あの書類も出さなきゃ、この書類も出さなきゃというのでドタバタ。まぁ基本的には税関から出せと言われた書類を作って送って解決。
  • Liability insuranceの契約
    • いわゆる日本でいう製造物責任保険。USはUSで掛けます。特に日本以上に訴訟国家のアメリカではマスト。というか日本でもPL法で企業の製造物責任が求められるようになったので日本でもマストなんだけれども。日本の保険会社にて海外での販売時にも保険が有効となるように契約することもできるんですが割高。今回はUSA側にて契約しました。参考までに、USA側で契約すると2倍以上の保障がついている保険商品にて、価格は1/2以下でした。
  • 米国法人登記と住所・電話番号・TIN・USA側銀行口座の準備 ※マストではないけれども僕らは実施した
    • 米国法人を作らずに販売することも勿論可能なのですが、今回は諸事情あって米国法人としてCerevo USA LLCをワシントン州に登記してアメリカ国内にて納税を行えるような体制を作った。※TINはTaxpayer Identification Numbersの略
    • 米国法人を作っておくと色々と楽。維持コストも何やかや入れても年間10万円以下程度なので、あると便利。今回は半年契約で4万円ぐらいの、住所だけ貸してくれるレンタルオフィスを利用することでコストセーブ。電話番号はGoogle voiceを使えばタダでGETできる。固定電話のように見える番号なので、外からみるときちんとしているように見える。日本でいう東京03が手にはいる、的な感覚。
    • 住所と法人登記があれば米国で銀行口座を開設できる。米国での取引時に毎回日本の銀行口座から送金していたら振込手数料がばかにならないというのもあるし、アメリカの口座がないと利用できないサービス、取引できないところなども出てくる。住所、電話番号、銀行口座、TINが揃えば外見だけは純然たる米国企業として振る舞えるしサービスなども通常の米国企業と同様に受けることができるので、不自由することがほぼない。また、商品を購入してくださるアメリカのお客様から見ても『怪しい輸入商品』ではなく『まがりなりにも米国に拠点を持ってビジネスをやっている会社の商品』として見えるので商品購入時にいらぬ不安を与えなくてすむ、というのも大きい。
  • ユーザーサポート体制の構築
    • これはメールサポートが現実的だろうということで、日本側からメールサポートを実施することで解決。一定件数を超えてオーバーフローしそうになったら一次受けをアメリカの会社に委託すればいいや、とした。結果的によかったなぁと思うのは、一次受けを面倒だけれど自分たちでやることで、アメリカの顧客がどういった悩みをかかえていて、どんな商品の使い方をしているかというのが直につたわってきたこと。短期的でも自前でやる、ということのメリットだろうがものすごいプロモ費を突っ込んで垂直立ち上げをやるような場合はやめたほうがいいと思うw
    • CESで発表した直後はサポート業務やってくれている @mhr のメールボックスのほとんどが英文メールのSubjectで埋まる事件などが発生して嬉しい悲鳴となったりしてどたばたはしたのだがw
  • RMA体制の構築
    • 不良品は発生しないのがベストだけれど、量産される工業製品である以上ゼロにすることはできない。そこで、メールサポートにて不良品かどうかの判定を行い、これは不良品の可能性大となったらある住所に送付すると新品を送り返してもらう、という仕組みを構築。企業でやってくれている会社もたくさんある。今回はUS市場が立ち上がるまでは内輪でやりましょうということでCerevo USAの仕事をお願いしている方に実際のオペレーションをお任せすることにした。
    • そういうわけなので念のためアメリカへの出荷台数の2-3%程度の個体はRMAオペレーションをやる拠点に配送してストック。勿論不良率が1%を超えたりなんてしないように設計しているので、余りの品はRMA倉庫(RMA拠点)から販促機として販社さんとかへ出荷することで数を調整することにした。
  • Amazon USAとの契約、FBAの利用
    • アメリカ国内でECの仕組みをゼロから構築とかやってられないのでAmazon.comのFBAサービスを利用することにした
    • FBAサービスってのは国内でもやっているサービスで、Amazonの倉庫にモノ(LiveShell)を送りつけてオンライン上のコントロールパネルで値段やら商品説明やら記入すると、Amazon.comが発送/決済を全て代行してくれてお急ぎ便も使えるという便利なサービス。利用料はざっと8%ぐらい(LiveShellの価格の場合,送料込み)と大変お得で、楽。
    • 全てオンラインで済むのでAmazon.com担当者と話すことすらない。フォームに会社情報やTax information numberを入力して進めてゆけば終了。その後、Amazon,comが指定する倉庫住所に、指定されたラベルを貼りつけてLiveShellを送りつければOK。

まとめと謝辞

以上、かな? まとめると項目少ないんだけど、実際やるとなると法人登記関係と銀行口座関係が大変だった。お金はあまりかかっておらず、登記関係&保証書の推敲を弁護士に頼んだのでそこで30〜40万円ぐらい発生したのみである*1。素晴らしきことは、インターネットとオンラインサービスのお陰で、従来であれば事務方の社員が1-2名しかいないようなスタートアップでもアメリカにてモノを売るということが無理せず現実的にできるような時代になったということだ。Amazon FBAの存在は大きいし、メールやオンラインマニュアルによるユーザーサポート業務もしかり。アメリカ側で手伝ってくださる方とSkypeで無料にて何時間も電話会議ができることもそうだし、Google Voiceで固定電話番号を無料でGETできることもそうだ。無理にアメリカに行こうという話をするつもりはないが、日本で1日1個売れる商品を2カ国に展開すれば2倍売れるようになるかもしれない。3カ国にすれば3倍売れるようになるかもしれない。チャレンジしてみるのは悪くないのではなかろうか。

とまぁやってしまったあとなので色々薀蓄を垂れることができているわけだが、試行錯誤しつつも何とかきちんと発売にこぎつけることができたのは、Cerevoの社員が頑張ってくれたことに加え、元マイクロソフトの古川 享さんから良き支援者をご紹介頂いたから、という要素がめちゃくちゃ大きかった。アメリカでの販売を考え始めた2011年頭に『誰かアメリカに住んでいてCerevoアメリカ展開を手伝ってくださるいい人いませんか、紹介してください!』という無茶振りをしたところ、某有名国際企業の立ち上げなどに関られた経験豊富な方をご紹介頂くことができたのである。古川さん、ありがとうございました。

おまけ

CESでContour社のブースの端っこを間借りして展示したら、何が起きたか? という話を少しだけしておきたい。これまで述べてきたように、英語ドキュメント作ってアメリカの法規制クリアして売るってだけでも結構たいへんだなーと思ってCESに出展してみたら、アメリカ以外の実に12カ国から『xx国にてLiveShell売りたいんだけど』という問い合わせがマシンガンのように来ちゃったのである。アメリカすげーというつもりは全くないけれど、英語すげー、というのは間違いないなと。


.....で、南アフリカ*2で売るには一体何の規制をどうクリアしたらいいんでしょ?w
苦難の日々はまだまだ続きそう、である。

*1:Liability insuranceの$2,000/年はここから発生していくけど

*2:本当に南アフリカの家電ディストリビューターの方からコンタクトがあって、売りたいというお話を頂いた