[ビジネスモデル]東芝のDVDレコーダー「RDシリーズ」は弱者の戦略か? Webコミュニケーション時代の商品企画を考える

家電メーカーの商品企画の間では、東芝RDシリーズの商品戦略は弱者の戦略、あるいは敗者の戦略と言われてきた。


はたしてそうだろうか?


ソニーパナソニックといったシェアトップ争いをしているメーカーは「一般消費者」向けのいわば「メインストリーム機」を低価格路線で売り込むことに成功し、大きなシェアを確保。対する東芝は低価格戦争に乗り遅れ(参戦しなかった、という取り方もできる)、高性能機にPC連携機能をふんだんに盛り込み、ハイエンドユーザに少数売ることで利益を確保してきた。


そしてソニーパナソニックの担当者はこう言ってきた。

ははは、東芝さんは弱者の戦略ですなぁ。
シェアトップ争いをしている我々には、そんな戦略はとてもとても...(嘲笑)

だが2006/02月現在、BCNランキング調査での売り上げ1位(といっても1週間のデータだが)はTOSHIBA RD-XD71である。
参考:http://bcnranking.jp/ranking/02-00006545.html


東芝の戦略は旧世代の家電ビジネスの中では確かに弱者の戦略だった。例えばその昔のミニコンポ全盛時代におけるONKYODENONのように。


ここで言う弱者の戦略とは「如何にヲタ受けするか」だ。東芝のDVDレコーダーの場合は、それがビットレート指定できる録画画質設定だったり(他社はHigh,Normal,Low等の切り替え式)、無駄に高性能っぽさをアピールできる金メッキ端子だったりしたわけだ。

そんな所で訴求しても一般人には理解できないし、
『この機能故に価格が上がってます』なんて説明は受け入れられない。
仮にお客さんには受け入れられるとしても、
限られた商談時間の中で販売員がそんな事を説明してはくれない。

家電メーカーのマーケティング,商品企画を総括する白髪混じりのオヤジどもはこう声高に語る。従来のマーケティング論からすると、勿論これは正論だ。量販店の店頭で商談をする人間にとっても大きく頷ける論理だろう。


だが、Webサービスの進化でエンドユーザーの情報収集形態が大きく変化している事を忘れてはならない。


ネットでの調査無しに2万円以上の家電を買う人間は、年収1000万以下,年齢40歳未満に限定すればほとんど居ないといって良いのではないだろうか*1。誰もがkakaku.comを知っているし、2ちゃんねるも知っている。amazonやrakutenで相場を調べるついでに感想が見れるし、mixiやIMで相談できるネット上の友達も持っている。よしんばこれら全ての選択肢を知らなかったとしても、同僚や友人に相談するようなことがあれば、これらを情報ソースとしたアドバイスが返ってくることだろう。


そんなWeb2.0全盛期の今、結果的にユーザはWebコミュニティ発の前知識を持って量販店に来る事になる。Webコミュニティの主役は「その筋のヲタ」であることを否定できる人はいないだろう。結果一般人は、ヲタのアドバイスに従って難しい機能を(上っ面だけとしても)理解しつつ、当該機能があるからこそ価格が高い、ということを頭では理解しようとしている...という状態で販売員と接するわけである。内心では購入機種を仮決定した状態での来店かもしれない。事実、数年前と比べ、格段に「指名買い*2」が増えているという。そして、DVDレコーダーで一番指名買いが多い機種が、東芝RDシリーズだというのだ。


冒頭のBCN調査のデータに戻ってみよう。短期的とはいえ東芝RD-XD71トップセールスを記録しているというデータである。2位3位がアナログ地上波が録れるDVD+HDD+VHSの3コンボモデルであるのに対し、RD-XD71はデジタル録画可能なDVD+HDDモデルであり、価格が高く高性能なモデルだ。にもかかわらずの1位である。対するソニーパナソニックのデジタル録画可能DVD+HDDモデルは4位以下に沈んでいる。


その筋の情報入手経路として一番有名なkakaku.comに、面白いデータがある。
DVD/HDDレコーダーの口コミ書き込み件数が、ソニー4万1千件、パナソニック7万1千件なのに対し、東芝は12万3千件。シェア1,2を争う2メーカーの書き込みよりも2,3倍多いというのが現状(2006/2/26現在)である。全てが肯定的な意見ばかりではないが、少なくともkakaku.comにおいて東芝のDVDレコーダーは最も注目される存在であるということがわかる。これだけの情報でも、全く予備知識のない人間や人と同じ選択をしていれば安心という人間には、東芝が選択肢の上位に浮上することが想像に難くない。

参考:http://kakaku.com/bbs/menumaker.asp?CategoryCD=2027


たかだか1週間程度のデータをベースに勝ち負けを論じるのはばかげているが、kakaku.comの書き込み件数などからも推測するに、地道にヲタネット世論を味方につけてきた東芝の底力が今頃になってじわりじわりと効いて来たのでは?と思う次第。


ネット世論を味方につけられなかったソニーパナソニックは結局安売り戦争しか能がないブランドへと凋落してDVDレコーダーによる利益確保は絶望的となり、彼らが嘲り笑っていた東芝だけが(シェアは1位ではないとしても)利益をしっかりと確保することができる、というストーリーが頭から離れない。



じゃぁWeb2.0時代の家電商品企画は?

ってそんなに簡単に結論が出てしまえば家電メーカー商品企画やマーケティングはは苦労しないのだが、

1. Webコミュニティで話題になりやすいような企画
2. 多少のコスト増は(強豪製品の+5〜15%以内)許容
3. そして、ヲタ好みするハイエンドモデルを必ず設定
4. ヲタ好みする情報をBlogなどで発信


あたりではなかろうかと考える。
1については念入りな過去ログ調査が最低限必要。
2については部課長クラスの勇気ある判断が必要。
そして重要なのはやっぱり3,4だ。


なぜ3を入れたかというと、ヲタが他人に推薦するモデルは自らが利用するメーカーのモデルであることが多い為。ヲタ好みする高級機種(東芝でいうとRD-X6など)をラインナップの最上段に据えておけばOK。


きわめつけは4。「ややヲタ」「ぬるヲタ」あたりを洗脳するにはBlogで情報発信して2chで引用してもらうに限る。『弊社の○○システムは従来機種に比べてノイズ発生率を○○%低下させ...』なんて書いて計測値を明記したグラフまで掲載しておけば、2chkakaku.comでの他メーカー支持ヲタによる「で、その情報のソースはどこよ」攻撃にも耐えて「A社の製品はノイズが少ないんだよ〜」なんて書き込みをしまくってくれるというわけである。


でもこれって、ものすごーーく当たり前のことなのである。
お客様の意見を聞き、多少高くとも良い品を作り、情報を開示して良さを伝える。
ただ、ターゲットを「よくわかってない一般人」ではなく、
「あるていどわかってる人」「ネットで書き込みする人」に当てようというわけだ。


すぐにジジィも2ch見る時代になりまっせ。

*1:アンケートなどで調査して定性的なデータとしたいが、Webアンケートでは意味がないし...。誰かデータの在り処をご存知の方おられましたら教えてください

*2:○○社の型番XX-XXXください、と言って販売員に相談せずに購入する事