仕様決めたの誰!? "使えない"地上波デジタルのデータ放送。

まぁ仕事柄データ放送とか地デジとか、そのへんには詳しいわけですが、プライベートでは大して活用していなかった。というか普段TVなんて見ない。ほら、id:naoyaな人もテレビを見ないひとは優秀だとかいうじゃぁないですか(ぉ  ...冗談だ。まぁ基本的にアニメとモータースポーツ以外は見ないし、CM付きリアルタイムで見るのは1年に16〜19回だけだ。


その十数回ってのがF1グランプリ。で、F1も2006年シーズンから、地上波デジタル放送にてデータ付きで放送されることになった。


というわけで早速使ってみたのだが...。


ツ カ エ ネ ェ !


まず、レース時間中更新されない情報として以下の3つがある。

  • チームやドライバーの情報(名前、生年月日、戦歴等)
  • サーキットの情報(簡単な紹介,コース図)
  • 専門用語集

これらに加えてある程度更新されて行く情報があるのだが....

  • 番組放送内容のメモ(解説が「○○はXX周目ぐらいにPITでしょうかねぇ?」といったら「○○のPITはXX周目ぐらいと予想される」とデータ放送に出るだけ)


・・・これだけ。いやいや、本当に欲しいのはこんな情報じゃぁないだろう。ル・マン24時間耐久レースみたくTVの前に張り付いて見ているのは不可能、ってなほど長時間番組じゃぁないんだから。本当にユーザーが欲しいのは、TVには写ってない中盤以降の順位やラップタイムなどの情報*1、そしてアナウンサーが喋るほどではない枝葉末節の情報。こういった物を文字で補助してくれれば、番組がもっと面白くなるというものだ。


同日、マラソン中継番組もデータ放送付きで視聴してみた。結果、やっぱり出てくる情報はF1と一緒の上っ面だけのもので、本当にマラソン好きなら一番見たい、リアルタイムの順位・タイムの変動については一切表示される事がなかった。


何でこんなことになるのか。すぐに「マスゴミ!」「だから放送局って奴は....」何て意見が聞こえて来そうだが、事はそんなに単純ではない。


そもそも誰が決めたかデータ放送はBMLという特殊なマークアップランゲージで書かれており、既存のインターネット向け資産の活用が難しい。またデータ転送方式がカルーセル方式となるため、送れるデータ量に限度があり、またデータベースと連動した個人最適化情報の送出という形態も取れない。加えて配信するデータの権利問題もあり、追い討ちをかけるかのようにTVリモコンの腐りきったユーザーインタフェース問題が重なり合う。


まぁでも結果的に、決められた仕様の中で面白いコンテンツを作るのがコンテンツ屋であるTV局の仕事であり、現状のデータ放送においては、彼らはその任を全うできていない事は確かな事実である。少なくとも順位を争うスポーツ番組にて順位表示をすることは現状の技術上でも可能なはず*2


『データ放送の実現で、クイズ番組にお茶の間からあなたも参加できます!』なんて視聴者であるお客様が望んでいない事は横へ置いておき、まずは何が求められているかをきっちりとリサーチして、トライアルしていってほしいものである。



で、最後に家電メーカーの人間として心の叫び。
誰じゃーこんな糞みたいなデータ放送仕様作った奴らはー!

まぁだいたい予想はできてる。
以下3点を条件に実装したのだろう。

  • アンテナと電源を繋ぐだけで
  • リモコン操作だけで
  • 誰でも簡単に見れる
  • 老若男女全てのTV視聴を変える!


で、結局糞な仕様故にどんなに簡単な操作で使用出来る機能であってもマスコミで取り上げられることがなく、結果機能の存在すら理解することができず、誰も使わなくなるという悪循環。「誰でも簡単に使える」事を追求しすぎた結果の悪循環というわけだ。


情報収集能力,新規機能活用意欲などが低い人間はマスメディアでイナーシャを掛けてやらなければ既存の生活パターン*3を変えることはできないと私は考えている。ある程度そのあたりの能力が見込める若い人間を対象に、もっと面白いことができるような仕様で実装して流行させ、盛り上がらせてしまう事が重要なのではないか。Web2.0的ですな。これが上手くいった例は携帯電話におけるメール文化であり、Yahooオークションであり、もっと根本的なところを言えばGoogleである。


重要なポイントは「誰でも簡単に使える」ようにするためにコンテンツが面白くなくなるのであれば、「結構簡単」ぐらいに利用難易度を上げても良いからとにかく面白いコンテンツが展開できるようプラットフォームを作ることである。


地上波デジタル放送におけるデータ放送は、このポイントを見事に外してしまったように思えてならない。「データ放送を受けるにはTVのインターネット接続前提」と敷居を引き上げる一方で、HTML+JavaScriptで書かれたコンテンツをリアルタイムに引き出して来る、そんな設計にした上で、i-modeやケータイメール,Web Chatなどと連動するような従来無かったような新しく、そして面白い番組を企画して、若い人たちの間*4で流行を作って行き、子供がねだるからという理由でよくわからないままTVをネットに繋ぐ親を発生させる。そんなモデルがなぜできないかと、街でケータイからblogエントリ画面を叩く女子高校生を見ながら考えていた。

*1:F1の場合はどこまでのオフィシャルデータを放送に出せるか、放映権で細かく規定されているのでこれが難しいことは承知の上であえて理想を述べてみている

*2:秒単位での更新は出来ないとしても

*3:ここではTVの視聴という生活の一部に限定しているが

*4:といっても40歳未満ぐらいのイメージ。ティーン対象だ、などというつもりはない