クタラキの野望〜携帯機風雲録 パワーアップキット〜

DSにあってPSPになかったもの

というわけで、2006年3月15日に開催された、PS Business Briefing 2006 Marchは、PSPはパワーアップキットを発売し、ファームを改良していくことでDS追撃体制を固めて行くよ、という内容だった模様(弊サイトでもまとめを作成した)。

DSにあってPSPになかったものは何か。そりゃぁ差異は山のようにあるが、個人的に一番効いているのが「みんなと一緒に遊ぶ」「コミュニケートして遊ぶ」という概念だったのではないかと思う。

この概念がバイラル的な効果を発揮することは、どうぶつの森ニンテンドッグスの例を見るまでもなく明らかである。とはいえ、この領域に日本の大企業、特にトラディショナルな大企業が踏み込むのは大変な壁があったのではないか。人と人をつなぐこと、そこには多種多様なリスクが存在する。

ソニーがコミュニケーション分野のリスクを取れなかった訳

国内では2ちゃんねるやケータイ向け出会い系サイト,USではMySpaceと、ユーザ間コミュニケートサイトを発端とした犯罪の報道が後を絶たない。同じ事はオンラインゲームでも起こり得る。特に家庭用ゲーム機のように、ゲーム機メーカーが認可したゲームだけをお墨付きで売るというビジネスモデルにおいては、万が一問題が起きた際はメーカーが袋叩きにされる。ゲームに「コミュニケート」要素が必要不可欠なのだとしたら、任天堂はやれる。不可欠なのだから、多少のトラブルは覚悟の上だ。事故死が怖くて車作りをやめるなんてことは出来ないトヨタのように。だが、ソニーはできなかった。

なぜか!!

坊やだから...ではなく、ソニーコングロマリットだからだと、私は思う。ゲーム部門が発端で事件に発展すれば、本業であるAV部門にも大きな影響が出る。「いやでもゲームってそんなモノなんだよ」といういいわけは、任天堂では通用してもソニーでは通用しないのである。

だからといって、WindowsにおけるDirectXのように「好きに作っていいよー」としてしまうと、ソニーがゲームベンダーから上前ピンハネが出来ず、PSPをあの価格で提供することができなくなってしまう。

今回のソニーの発表を聞いて、クタラキさんは恐々その領域に足を踏み入れて来たことを確信した。携帯ゲーム機戦争にパワーアップキットを引っさげ、コミュニケーション分野、加えてリアルとゲームの融合(コミュニケーションアプリにおいて重要な要素)に殴りこみを掛けてきたわけだ。

任天堂は既に、地デジ視聴キットを発表しているが、GPSもカメラも無い。さて、何か面白いアプリが出てくるかどうか。楽しみである。だが最大の問題は、とっても面白いコミュニケーション系ゲームをゲームベンダーが提案し、それにソニー側がOKを出せるかどうか。この1点に、PSPベースの面白いコミュニケートゲームが出てくるかどうかが掛かっていると言っても良いのではないだろうか。

はー。コングロマリットって足かせが多いねぇ...。

※内部情報ではなく、あくまで個人による予想である。悪しからず

開発キット値下げとソフトのDL販売でラインナップを底上げ

メモリースティックからプログラムが起動できるようになったこと、またそのプログラムをオンラインで配信できるようになったことは、開発キットの値下げに伴って大きな波及効果があるかもしれない。

スピーチ内でも言及されていたが、ケータイコンテンツ屋、はたまたWebサービス屋(例えばmixiとかMySpaceとか)がPSP向けゲームを開発し、低いコストで流通させるという事も可能になる。

そしてやっぱりネックになるのが、ソニー側の認可機構であるわけだ。

Web2.0的には、既存PCベースネットコミュニティを楽しく活用するためのクライアントアプリケーションが「PSP向けゲーム」としてDL販売され、PSPなんてただのプラットフォームとなり、価値の源泉はWeb上のコミュニティでありサービスに移る...。そんなモデルが理想なんだろう。

もしこんなゲームが許されるのであれば、DS用クライアントも提供されるわけで、そうやって携帯用ゲームがコモディティ化したプラットフォームとなってしまったとき、ソニーは、クタラキ氏はどんな戦略を取ってくるのか、今から楽しみである。

DSを追撃しないといけないが、こんな構図にはなってほしくない。そのジレンマが垣間見えた気がしなくもない。