スクエニと松下の提携、具体的なアプリはどうなるか

スクエニと松下が提携,シームレス・コンテンツ環境の共同構築へ」というニュースがリリースされた。GDC2006のキーノートスピーチにおける任天堂岩田社長のスピーチはもちろん、日付が近い記事で言えばエンターブレインの浜村さんのインタビューなど、ゲームユーザーのハードコアゲーム離れ/カジュアルゲーマー増加についての記事が後を絶たない。DSが流行ったから or ケータイゲーム(iアプリ等)が流行ったからだけでしょ?と言うなかれ。それらの占める数的優位は定量的データとして揺るがない事実だ。そんな流れに乗って、カジュアルゲーマー向けに面白いプラットフォームを作ろうというのだろう。

テレビを買ってきて、インターネットにつないだら、ブラウザで面白そうなゲームを選んでクリックするだけで遊べる。ゲーム機を買うこともないし、ケーブルが這い回ることもない。勿論ゲーム用DISCを挿入したりすることもない。セーブデータはネット上に保存され、兄弟でメモリーカードを奪い合ったり、データ消去が原因で兄弟げんかになることもない。そんな世界がすぐそこに来ていることを感じさせる。さらに、同じユニフィエなるチップを使ったカーナビや携帯電話があれば、その上でも同じバイナリコードが動くかもしれないというのだ。

恐らくだが、キーマンはこの発表の中心となった「SEADエンジン」のベースとなった「UIEngine」を開発したUIEvolution社CEOの中島さんなのではなかろうか? インサイダー問題があるので彼のBlogではニュースリリースを紹介するに止めて沈黙を守っているが、正直彼がこのエンジンを使ってどんなアプリケーションを構想しているのか、気になってならない。

彼がここのところCNETで連載してきた記事を見ると、スクエニ・松下提携のニュースリリースに合わせてしこしこと書き溜めてきたんでしょう!と言いたくもなるような内容が並んでいる。読めば彼なりの「目指すもの」はぼんやりとは浮かぶが、当然のことながらDetailはわからない。このエントリをトリガーにしたBloggerの議論からエッセンスを抽出してやろうと企んでいるのではないかとも思えてしまうほど見事なボカシっぷりである。うーん、気になる...。

彼の考え方はよくわかる。「パーベイシブ・アプリケーション」という言葉を除けば全てがしっくりくる。強いて言えば、ゲームだけじゃなくエンターテインメントコンテンツ、特にコミュニティ性のあるものは全てこの考え方があてはまるんでは?とは思うが。「どうぶつの森」や「どこでもいっしょ」がそうであったように、ゲームという枠にはまるようなコンテンツではなく、コミュニケーションを主体にしたようなコンテンツ、しかもネットワークを介することでその対象が他のユーザ(あるいはその指示によって作り出された何か)となるような形態を取るのだろう。プレイヤーの意思や時間感覚とは関係なく進化成長する世界があるからこそ、ユビキタスアプリケーションが求められる。対象が人間である場合の需要については「Ultima Online」をやっていたコアゲーマーの間で認識され、「たまごっち」や「どこでもいっしょ」によって対象が人間でなくとも(少なくとも)ライトゲーマーの間では需要があることが証明されたと言えるだろう。ただ、中毒性・継続性という観点からはやはりネットワークの向こう側に見え隠れする他ユーザーの存在が重要だ。しかし、見えすぎるとユーザ間トラブルなども多くなる。このあたり、家電という万人を対象にしたプラットフォームに乗せる以上、色々な壁が存在することだろう。どう纏め上げてくるのか、楽しみである。

スクエニ・松下提携話がいつのタイミングから為されていたのかは定かではないが、発表の席において松下製チップの上でスクエニ製デモが動いていたのをみると、1ヶ月や2ヶ月前の話ではあるまい。そうなると「UIEを使って日本市場向けにパーベイシブ・アプリを作る」を目標にUIE Japanが設立されたタイミング(2005/11)は、本件と何らかの関係があるのではと勘ぐってしまう。キラーアプリケーションはスクエニから出るのかもしれないが、ゲーム業界のイノベーション・ジレンマを克服するのはUIE Japanのスタッフなのかもしれない。


さて「実現される具体的なコンテンツ像はどんなものか?」という視点から離れよう。問題は、その理想を押し通せば押し通すほど、ハードウェアベンダーとの間にミゾが出来てしまうことだ。松下は恐らく、松下のハードウェアにだけスクエニのゲームコンテンツを供給してほしいだろうし、スクエニの立場からすればシャープやソニーのTVでもプレイできてくれないと意味がない。ただ、テレビでプレイしていたエンターティメントコンテンツを、カーナビでも携帯でも、果ては風呂場のディスプレイでもプレイできるような環境をまずは1社(ここでは松下)とだけでも作り上げ、中島さんの言う「パーベイシブ・アプリケーション」の世界が如何に魅力的なものであるかを世に知らしめる事を考えると、携帯・カーナビ・TVの全てを作っているメーカーであり、かつコアとなる半導体を自社生産しているメーカー、それでいてゲーム機ビジネスに利益の大半を依存したりしていないメーカーということで松下を1stパートナーとして選んだのは、なるほどと思わせる組み方と言えよう。

この提携の裏でどんな具体的契約が交されているのかは知る由もないが、SEADエンジン向けゲームソフトウェアがどのような形でマルチプラットフォーム展開されるのか、その他の家電メーカーやPCへの供給はどういった形で為されるのかが大変興味深い。2008年に具体的な製品が出るかも?というリリースなので、2010年ぐらいまでは松下エクスクルーシブな条項が盛り込まれてたりするんだろうか。興味深いといえば、家電用CELLというファイナル・ウェポン(無用の長物でなければいいが...)を抱えたソニー東芝の動きも注目したいところだ。2005年のCEATECHではTVに積んだCELLでコレでもかというほどハイスペックな3D計算のDEMOを走らせていたことが記憶に新しいだけに。




で、エントリを書き上げてみてふと「何でSEADなの?」って思ったらSquare Enix Application on Demandの略らしい。軍事好きとしてはSuppression of Enemy Air Defenceか?と思ってしまうがそれはさておき...

SEEDにしとけば「種エンジン!」とBlogで取り上げられて話題性もあったのに!

え、略称が合わないって?そりゃあーた、Square Enix Entertainment on Demandとかにしときゃいいんですよ(ぉ