慣れた環境から抜け出せない人々

http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20102155,00.htm

シャープがインターネットAQUOSなる商品(何のことはない大画面液晶がセットになったテレパソ)を突っ込み、カブドットコムはこれに専用アプリで情報を配信してお茶の間株取引に名乗りを上げる。なんかすごい時代になったもんだという記事を書く人も居ろうが、なんのことはない2000年ぐらいから色んな会社がさまざまな商品でトライアルしては屍累々の戦場『リビングルームの時間』争奪戦を、まだやってるだけである。長く続く不毛な戦いは兵を疲弊させるというが、全く持ってその通り。

現状のリビングの主役はTVだが、90年代後半に各社がブラウザ搭載TVを実験的に出すも即撤退。2003年頃から松下がブラウザ+Walled Gardenポータルをセットにした「Tナビ」対応TVを出し始めると、東芝がWalled Gardenではないモデルで応戦。続いてソニーもブラウザを搭載し、こちらは松下同様Walled Gardenポータル「TVホーム」をセットにして戦いを挑んできた。日立は松下のTナビをOEM搭載する。また、DVDレコーダーも順調に普及したものの、リビングの主役たるにはまだまだ力不足だ。そしてPC業界からはWindowsXP MediaCenterEditionを積んだテレパソが『漏れなら何でも出来ますよ』とばかりに、リビングでは見慣れなかったQWERTYキーボードを携えて登場する。・・・というのがちょうど1〜2年前の状態。2006年頃にはある程度勝負の方向性が見えてくるかなと思いきや、状況は前へも後ろへも進んでおらず、ネット界の移り変わりの早さの中に身をおいていると、なんとまぁのんびりとした事かと呆れてしまう。リビングを狙ってビジネスを企画している方々の夢を壊すようで何だが、一般消費者なんてそんなもんである。家に帰ったらまずPCのモニターを点けて、日々進化するWeb2,0サービスをフル活用して情報収集・共有...という生活をしている人たちと、そうでない人たちの間に情報収集ディバイドが起きてしまうのもわかる気がする。

各社、リビングではテレビ点けて茶すすりながら眺めることしかしない人たちを、どう次のビジネスの顧客とするか考えあぐねているようだが、個人的にはこのアプローチに対しては否定的だ。何故か。結局のところ、彼らは新しきに適応する能力を持たないユーザだからである。カラーテレビが普及してからブロードバンド&無線LANブームが訪れるまでの30年間、彼らのリビングルームにおける行動は変化しなかった。変化させようとする外的要因がなかった、と書いてあげたほうがいいかもしれない。いまさら彼らに変えよと言って変えられるだろうか?答えはNoだと思う。背伸びをしてパソコンを習ってみても、子供からケータイメールを習ってみても、やっぱりお茶の間でTV点けてお茶というスタイルに戻ってしまう。勿論一部にはInternetによる新たな世界の広がりに狂喜乱舞し、生活スタイルをガラリと変えてしまう者も中にはいる。だが、残念ながら少数派中の少数派だ。なぜ彼らはリビングでPC,ケータイ,ゲーム,Internetといった機器・世界を活用して生きることができないか?私は『彼らの人生においてネット・ムーブメントが起きるのが遅すぎた』のだと推測している。若いうちはなんでも新しいことをやればいい、なんてことを言う年配者が多いが、裏返せば「年食ったらもう新しいこととかやらないから(やろうという気が起きないから?)」と言っているように聞こえる。*1彼らを、今頃になって変えようとしているのである。ちょっとやそっとネットや次世代ゲームが楽しかったところで、茶をすすりながらゴールデンタイムの番組を眺めるという彼らの行動に変化が出るとは思えない


単刀直入に言おう。現状の家電各社の取り組みは「PCとかネットとか使ったことない人」「ケータイは難しいから通話とメールだけ」というユーザを取り込もうとしているわけだが、そのひとたち、いつまでたってもあちら側の世界にゃ来ないんじゃ?と思うわけだ。まぁ死ぬまでずっとってことはないかもしれないので一定の取り組みは残す必要があるが、もっと『今PCやケータイでネットをごりごり使い出しているユーザ』がリビングルームでどんな事をしたがっているのかを冷静に推測し、ウォンツを掘り起こして機器・サービスとして具現化してゆくことにマンパワーを割くべきではなかろうか。「そんな人たちはPC・ケータイ使うでしょ?」と言い逃れしつつ、Yahooやmixi,インデックスといったネットサービス企業が得意とするフィールドでの、不利な戦いを避けているようにしか思えない。


だからインターネットAQUOSとか、専用カブドットコムアプリとかわけわかんないもんが出ちゃうわけですよ。

*1:勿論この言葉の裏には、若いうちは失敗しても許されるとか、間違ったルートを選んでもやりなおせる猶予がある、というニュアンスが含められていることは理解した上で、あえてこう斬りたい。