CGMサービスがキャズムを越えることの難しさ 〜はてなはキャズム越えに失敗した!?〜

長ったらしいタイトルで申し訳ない。近藤社長( id:jkondo )がキャズムを越えさせたいと思っているか否かは別にして、はてなキャズム越えに失敗したんじゃないか?と思う。好意的に解釈すれば、キャズムを越えることよりも、一部のニッチなユーザの欲求に答えることを優先したと言うべきかもしれないが。

ベンチャー提供のCGM系サービスにおける初期ユーザは濃い人

CGMをベースとしたサービス*1において、サービス開始直後に如何にして「アクティブな」ユーザを確保するが重要である。

活動資金が潤沢にあり、マス広告をガンガン撃てる事業者であれば、ネットリテラシーがそれほど高くないユーザを初期段階から確保することはそう難しくはない。ヤフージャパンやインデックスといった企業は、今後ケータイユーザを軸に、こういった「カネにモノを言わせた攻め方」をしてくることだろう。が、ベンチャーがこの手を仕掛けるのは無理があり、必然的に初期ユーザはネットリテラシーが高いかあるいは情報アンテナの鋭い、世間一般に言うところの「ITオタク」や「ちょっと濃い人達*2」にならざるを得ない。

濃い人のコンテンツが濃い人を呼ぶ

Web2.0サービスの特徴は、そして彼らの尖ったセンスと高いITスキル、ネット上創作活動に費やす時間によって作り出されたコンテンツ(はてダの日記だったりはてブのコメント&タグだったり)が他のユーザ、つまりアーリーアダプタを呼び込む図式となることだ。

ここからがCGMと一般商品の大きく違うところだ。一般商品の場合最初に飛びついたユーザのセグメンテーションがITオタクだろうとアニメオタクだろうと、商品そのものの価値は不変である。だが、CGMは違う。初期ユーザのオンラインにおける活動によって、サービスの価値そのものが『彼らの手によって』作られ、彼らの行動如何で変化してしてしまうからだ。

結果、濃い人がやや濃い人を呼び、どちらかというと濃い人までもが召還された状態を現状のはてなである。彼らの作り出すCGMは「検索などできないような人でも疑問点を解決できるようにしたい」という創業者の思いはどこへやら、濃い人向けのコンテンツと相成ってしまったのである。

人気度系サービスの拡充と隔世感

ベンチャーとして獲得しやすい初期ユーザである"濃い人"に最適化し、彼らの望むサービスを提供し信頼を勝ち得るところまではよかった。問題ははてな最大の魅力でもある「ランキング」「○○数」「人気○○」「注目○○」系のコンテンツの扱いを誤っただろうことだ。便宜上、これらを総称して「人気度系サービス」と仮称する。

人気度系サービスはコミュニティ性を重視するサービスにおいては、参加者の一体感を得やすいこともあり、コミュニティ内ユーザからの支持を得やすい。コミュニティ内のユーザにとってみれば、他社の提供する同種のサービスとは出力結果が異なることが理想的だ。どこのBlogサービスのランキングを見ても、エロや笑いやマスコンテンツ系Blogが中心であり変化に乏しいが、はてなのそれは個性的であり、「ここにしかないコンテンツを楽しめる」「ちょっと尖った場所にいる自分の優越感」などといった有り難味を感じることができるのだ。

しかしながら、世間一般の傾向とコミュニティ内の傾向があまりに乖離しているにもかかわらず、さらに輪をかけて人気度系サービスを拡充してゆくと、新規参入者を拒む要因となりかねない。常連客が店員や他の常連客の話題だけで盛り上がってるバーに一元さんが入り込むようなものである。うめだもちお?どこのおじさん? にーてんぜろ?何それウインドーズのバージョン? ジェイコン?それJSONと違うの? てなもんである。

かくして「濃い人」を中心に「どちらかというと濃い人」ぐらいまでで、ユーザ数が頭打ちになってしまったのではないだろうか。

何が足りなかったのか、どうすべきだったのか

まず、全ユーザ参加型人気度系サービスの露出を抑え、トップページにおける全会員向けコンテンツとしてではなく、コミュニティ内コミュニティ(はてなグループはてなリング)向けコンテンツとすることが求められるだろう。さらに濃くない人でも楽しめるような新規サービスをローンチし*3、濃い人ワールドと一部繋ぎこんでいく。

濃い人ワールドに一般人を呼び込むことに成功した事例もある。mixiなどがそれにあたるだろう。最初はIT業界SNS状態だったものを、モバイル対応などによって見事にキャズムを超えてみせた。

おそらく一番重要なのは、濃い人向けワールドから一般人向けワールドへの転換点を「いつ」仕掛けるか、「どういうサービスを切っ掛けに」仕掛けるかであろう。そして仕掛けるポイントを一度逃してしまうと、どんどん濃い濃いワールドに向かっていってしまい、二度と一般向けサービスには転用できなくなってしまう危険性がある。

そういう観点から「はてなキャズム超えに失敗したのではないか?」と思うわけである。はてブキラーコンテンツになりうる、と判断できるだけのブクマ数が集まった時点で、一般人向け施策を考えるべきだったのかもしれない。
タイミングを逃してしまって窮地に立たされたはてなが、今後どういう方向にサービスを展開していくか、要注目である。

*1:CGM=Blogではなく、ユーザ参加によって価値が向上するData is next indel insideなサービス全般を指す

*2:アニメオタクだったり文学オタクだったりと、それぞれの分野において一癖ある人、とでも言おうか。

*3:例えばmixiミュージックのような。