家電メーカー技術部門の憂鬱

べっ、別に涼宮ハルヒの憂鬱に掛けたわけじゃないんだからねっ(照

・・・・まじめに行こう。


最近この人絡みのネタが多いが、またまたUIE中島さんが手厳しぃ〜エントリを書かれている。「家電メーカーの人」と十把一絡げにされると問題の根幹が見えづらいのでフォローしておくと、マーケティング寄りの部署ではユーザエクスペリエンス主導(言ってしまえば売れるかどうか)で物事を考える。そこに技術的差別化要素のあるなしなど、重要ではない。技術的差別化要素があって魅力の無い商品より、無くても売れる商品、ユーザが望む商品がBESTという考え方をしている。これは間違いない。

だが、技術寄りの部門では「技術的にどうか」が先行しているのが現状だ。他家電メーカーの方と話をしても、だいたい同じような温度感である。一言で「大企業病」と言ってしまえばそれまで。だがここには3つの大きな問題が含まれていると考える。

1つ目 「『技術屋は技術の差別化だけ考えよ』という文化」

技術部門の人間がすごくイノベーティブなアプリケーション/ハードウェアの『構想』を作ってもそこに確固たる技術がなければ評価されず、具体的に『動くモノ』を作ろうと思っても勤務時間中に勝手なアプリを作ることなんて許されない、というジレンマが1つ目だ。組織化された大企業には常に付きまとう問題である。Googleが採用するような20%ルールなどがあればフォローすることができるが、家電メーカーでこれを採用しそうな所は...今の所なさそうだ。実際には高度な交渉力を持つ一部の社員のみが、自らのアイディアを"仕事として正当化"することができているのが現状だ。交渉力を持つ社員=発想力を持つ社員ではないところに、問題の本質が隠れているように思う。

2つ目 「ハードウェア商売のリスク」

よしんば20%ルールが導入されたところで、その活動の中で発明されたイノベーティブなハードウェアが世に出ることは、現状の家電メーカーの組織体制,コンプライアンスの考え方を見るにつけ、「恐ろしく低い」と言わざるを得ない。なぜなら、ソフトウェアと違って出荷するには多大なコストが必要であり、万が一問題が発生した場合の回収コストなども計上すると途方も無いリスクがあるからだ。これがネットサービスであれば、とりあえずGoしてみて判断をユーザに委ねることもできるのだが、そうはいかないお金の事情,コンプライアンス事情があるというわけだ。となると、例え20%ルールで作ったちょっとしたハードウェアであっても、社内のお偉いさん方を回ってスタンプ・ラリーをコンプリートしなければ世に出せない、というわけだ。これほど楽しくないスタンプ・ラリーは他に無い...。

3つ目 「責任者が皆『こちら側』かつ『赤い海の猛者』」

最後の問題は根が深い。中島さんのエントリにあるようなネット家電を題材にした場合、家電メーカーの幹部層は梅田さんの「Web進化論」によるところの『こちら側』の方々であることが大問題なのである。さらに輪をかけて悪いことに、主要顧客層の大半が『こちら側』の人々であることが、彼らを傲慢にさせる。先日のエントリで説明したような機器が実現すれば、こんなに面白い視聴スタイルが! と提案してみたところで「それって面白いの?」という反応が返ってくるわけだ。面白いって言ってる奴らがこんなに居るんですぜ旦那 といったところで、理解のしようもない。『Web2.0は体験してみないとわからない』とは良く言ったものだ。噛み砕くと「ユーザー参加型コンテンツの面白さ」 「コミュニケーションが紡ぎ出す楽しさ」は体験してみないとわからない、とでも言うべきか。「Web進化論」を読んだ方々は多少なりとも理解を示そうと努力しているのは見ていてわかるのだが、体験が伴っていないのですんなりと理解するに至れないのだろう。

こういったWeb寄りの話には連携していないとしても、レッドオーシャンを戦い抜くことには長けているがブルーオーシャン戦略を描くことが苦手な幹部*1には、部下の提案したハードウェアが如何にイノベーティブなものかを判断することを苦手とするケースが多いだろう。どこの家電メーカーかは失念したが、オーディオ部門の責任者がipod以前のmp3プレイヤーを見て『圧縮して音質を落とすなんてオーディオメーカーたる弊社ではありえない考え方だ』と斬って捨てたのは有名な話。音質で勝負してきたオーディオ界の猛者にとって、そんな提案は理解しがたいを超越して嘲笑の対象でしかなかったわけだ。当然のことだが、そのオーディオメーカーは今はmp3プレイヤーを作っている。似たような事が社内で日々、起こっているのだ。

勿論幹部からGoが出されるケースもあるだろう。が、もう読者の皆さんもおわかりのとおり、そこに世界が驚愕するほどのイノベーションは恐らく無い。当然だ、彼らがGoを出せる=リスクが少ない=既に誰かが似たようなアイディアを提案していて業界がその方向に進もうとしているからだ。決して彼らの頭が悪いなどとは言わない。私なんかよりもずっと頭の回転の早い幹部は沢山いる。しかしながら、頭のいい悪いと、イノベーティブなアイディアを理解し、あるいは信じ、Goを出せるセンスは別物なのである。



……あーなんか書いてて憂鬱な気分になってきた。「が、私は技術部門でもなければハードウェア部門でもないので、周りには理解力の高いマネージャー殿が沢山いらっしゃるので幸せです」とでも書いて見れば気分も晴れるだろうか。



晴れないね(w


参考書籍

「こちら側」って何よ? レッドオーシャンとかブルーオーシャンって何さ? という方は下記書籍をご参考のこと。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

*1:まぁだいたいのケースにおいては大多数の幹部がこの類の人だろう