企業は社員に自社製品を貸し出して体験させ、CGMで発信させるべき

友人から面白い話を聞いた。本田技研*1では、社用車の一部を社員に貸し出すルールがあるらしい。社用車といっても、軽トラや営業バンだけではない。オデッセイやステップワゴンといったファミリーカーから、S2000のようなスポーツカーまで、様々な彼らの『商材』を借りることができるという。企画・マーケティング業務の効率を考えると、実にすばらしい制度だと感じた。

商品を考える、商品を売る、何を取っても商品のことを深く知らなければ意味がない。が、実際は想像や他人のリサーチによる結果を鵜呑みにし、自ら体験していない領域においてディシジョンを下して行く仕事のやりかたが目につく。

「沢山ボタンがあったらお年寄りには使いにくいに決まってる
アンケートでは背の低い車は好まれていない」
調査によると右側から乗降するケースは稀だ」

などなど。こういった仕事のやりかたはコンサルタント会社にでも任せておけばいい、と声を大にして言いたい。アンケートや調査によって読み取れるのはお客様の心理の表層の一部であり、深層心理は闇の中だ。だからこそ企画・マーケティング系社員の存在意義がある。

本田技研の制度は、社員にあらゆる車種を体験させ、明日の仕事に役立つ何かを見つけて欲しいというメッセージなのだろう。車なんてそうそう買い替えられるものではない。実際、自分が乗っている車以外を評価することは困難だ。試乗すればいいじゃん、なんて意見もあるだろうが、ディーラーでの試乗ごときで体験できることはたかが知れている。試乗は生活ではないからだ。生活の中で使う商品は、生活の中で使ってこそ評価できるものだ。


電機メーカーをはじめとし、あらゆるものづくり系会社はぜひとも自社製品においてこういった制度を取り入れていくべきだと思う。そして、さらに1歩踏み込み、製品型番毎にオフィシャル感想ページ(Blogなど簡単に書き込み・更新できるもの)をつくり、借りた社員は必ずそこに使用感などをメモするルールとするのである。当然、使いづらかった部分などについてもきっちりと書き込むことをルール上明確にしておく。次モデルの企画に反映するため、などと理由付けしておけばOK。言うまでもないが、書き込み者が社員であること、そういった貸し出し制度の対価として書き込ませていることはデカデカと掲示しておく。これがないと信用がた落ち、あっという間に炎上してしまうだろう。CGM時代のマーケティングは正直に、が鉄則である。AISCEASなどと言われて久しいが、お客様の立場に立つと「S」すなわちSearchしても風評がなかなか見つからない商品について知りたいと思ったとき、はたと困り果てる。2ちゃんねるの奥深くにある板まで調査しに行くスキル or 気力があるユーザはほんの一握りしかいない。企業がこういったCGMを発信してゆくことで、ネット上でクチコミ情報があまり無い製品の指名買いに繋がる可能性が高まっていくはずだ。

こういった取り組みは、次なる商品企画のために社員に経験を蓄積させることができ、おまけにCGM界における風評の蓄積もできてしまう、企業にとって一粒で二度おいしい制度になると思うのだが...。AVに特化していて商品数が少ないソニーなどはさておき、松下、シャープ、三菱、日立といった、取扱商品数が多く一部商品についてはkakaku.comへのクチコミ投稿すらないようなメーカーは、こういったアプローチを取り始めてみては如何だろうか。かかるコストは既存のコーポレートサイト用のインフラを流用すれば、体験用商品を用意するコストプラスアルファ程度で実現可能だ。初年度はテストと称して各製品3〜10台程度用意して抽選式で体験させるとして、5000万もあればおつりがくることだろう。


...なんて書いておきながらうちの会社じゃぁ、下記ストーリーがミエミエでやりましょうと言い出す気力も起こらないがorz


悪い意見書かれたらどうするんだ!
じゃぁ記名式にすればいい。
いや、情報ナントカ部門で検閲だ。
結果、自社製品ヨイショ体験記しか載らない糞Blogになる...

小さなマイナス点はむしろ風評の信憑性を高める「いい意見」であるということが、なぜわからないのだろうか。これもまた、ウェブコミュニティやネットで「評判を調べて買う」ということを自らが体験していないからこそ考えうる、「先入観による決め付け」の一種なのであろう。

大きなマイナス点がある商品であれば、隠すだけ無駄だ。Time誌のYear of the personにYouが選ばれるこの時代、絶対どこかに書かれるのだから。