ソニーのアプリキャストに感じる閉塞感と可能性

ソニーのデジタルテレビ『ブラビアJシリーズ』にはアプリキャストという面白い仕組みが搭載されている。

端的にいえば、テレビ向けウィジェット(ガジェット)。テレビ放送視聴中に動画エリアを縮小、空いた画面右端の領域を使って、インターネットコンテンツを表示することが出来る機能である。

と、こう書くと『2CHの実況板流しながらTVが見れるの?』『ニコニコ動画みたいにみんなでワイワイ突っ込みながらTVを楽しめるの?』『今見てる(見てた)TVに関連する動画をYouTubeから探してきて閲覧できるの?』なんて期待する方も多いだろうが、そんなことが実現しそうな"気配"すらないのが家電メーカー界隈の悲しく辛い現状なのである。

家電メーカーお得意の"クローズド環境"

アプリキャストの仕組みを簡単に説明しておくと、アプリキャスト専用のスクリプトを仕込んだWEBサイトをコンテンツプロバイダが用意。ユーザがアプリキャストボタンを押すと、現在提供中のアプリキャスト用アプリ一覧がメニューとして表示され、ユーザはその中から好みのアプリを選んで起動するという流れだ。だが残念ながら、ソニーは専用サイト(専用プログラム?)の仕様をサードパーティに一切公開していない。さらに、ヤフー,日経などソニーグループ以外のアプリ提供社名があがっているものの、広くコンテンツプロバイダを募集しているというわけではなさそうだ。

imodeの例を出すまでもなく、比較的簡単にプログラムが作れてしまうWEB系プラットフォームにおいて、広くあまねくプログラムの作成ができるよう環境整備することはプラットフォーマーとして必須事項になりつつある。AppleiPhoneが「サードパーティ向けにはアプリを開放しない」と発表した直後にBlogsphereで大ブーイングが起き、慌てて撤回...とまではいかないが折衷案を発表した例は記憶に新しい。

日本の携帯電話マーケットのように、公式アプリのライセンス供与でCPからショバ代を取るビジネスモデルだとしても、勝手アプリを許さ(せ)なかったauが "アプリ面に限定すると" 劣勢に立たされた例は記憶に新しい。とはいえ、仕様公開にはリスクも伴うため、こういった分野の経験がない大企業が及び腰になるのも無理はない。

2chみたいな信用できない情報を表示するアプリなんかをDLできるようにしちゃったらソニーブランドに傷がつくのでは? ユーザーの書き込みがそのまま出るようなCHATアプリを作られたら誹謗中傷なんでもアリになっちゃって困るのでは? 出会い系アプリみたいなのが出てきたらどうしよう...。ハードの機能を呼ぶAPIをCrackされてTVがハングしたらどうしよう? などなど、家電メーカー上層部が考えそうな「勝手アプリ公開に伴うリスク」要素は枚挙に暇がない。


つまり、わかっちゃいたが作れなかった、と推測されるゆえに、コンサバティブ大企業独特のリスク回避指向というかなんというかつまるところは"ダメ感","いけてない感"が漂うのである。


リスクを踏みたくなかった中間管理職が若手の提案に対し『まぁまぁ、まずはCPを限定したスモールスタートで市場の反応を見ようじゃないか』なんて言ってる姿が目に浮かぶようだが、実際のソニー内部事情は知るよしもない...。

アプリキャストの公式ページを見ると"SDK公開予定"と書いてある。まぁ期待は捨てずに行きたいところだが、早期にSDKを公開できたところで、ソニー独自言語でしかもソニーの機器でしか使えないプログラムだったとしたら、一体誰が書いてくれるのか?という疑問が残る。実は中身はただのCSS+JAVASCRIPTでした、なんて落ちならまだ化ける可能性も残されているのだろうが...。

そうはいっても業界に風穴をあけた風雲児

しかしながら、停滞を起こしてしまっていた家電業界に対しては大きなインパクトを与え、業界全体のドライブパワーを増強したすばらしい新機能、という側面もあったことは確かだ。私が高く評価している点は、アプリキャストには放送局が嫌う要素が3つも備わっているということである。

  • 一つはテレビ画面を縮小してテレビ以外のコンテンツを流していること。
  • もう一つは局が絡んでいないネットコンテンツばかり(ヤフオク、日経ニュース等)が表示されていること。
  • 最後は、テレビの脇に表示されるテレビ以外の情報から、テレビ局以外のWEBページを"全画面表示"で呼び出すことができることだ。具体的には放送を見ながらヤフオクをチェックし、気になる出品物が見つかればワンクリックで放送を見ることをやめてWeb(ヤフオクの当該ページ)に遷移することができてしまう。


放送局は放送とネットコンテンツの画面内混在によって視聴者の興味が放送以外に移ってしまうことや、放送以外のコンテンツがテレビ画面を占拠すること、そして結果的に放送から離れて(放送局オフィシャルWeb以外の)Webが全画面表示されることを異常に嫌う。

そして、家電メーカー全体の体質として『放送局に頭が上がらない*1』傾向がある。だからこそ、家電メーカーの雄たるソニーが「放送局に対して挑戦的な機能」を搭載してきたことを私は評価したいのである。

テレビ受像機の画面は放送局のもの?製造メーカーのもの? という議論をここではじめるとなると炎上を避けられないだろうから割愛するが、テレビの画面上でできることを制限しようとせず、もっといろいろなことができるようになればもっと便利で楽しいリビングルームライフが始まるのではないか? と感じていることは確かだ。制限するのではなく、新しきを受け入れ、変わっていくべきではなかろうか。

そのためにもソニーアプリキャストにはもっともっとがんばってもらい、「テレビを見ながらだからこそ」や「大画面ならではの」ユーザーエクスペリエンスを創造してもらいたいものである。

誰もが面白く便利なアプリを作りたくなるような言語仕様にて、アプリキャスト用勝手アプリを開放することで、その1歩が開けるような気がしてならない。ソニーがそういったアプローチを取ることで、対放送局,対競合家電メーカーどちらに対しても多大な影響を与えることができるはずである。


※そして真っ先に登場するのは2chの"実況板"をリアルタイムで垂れ流すウィジェットなんだろうなぁ...。なければ多分私が作るwww

というわけでソニーさん、自社コンテンツのFLOQ(フローク)をアプリキャストに乗せるかどうか、なんて議論はさて置いといて、さっさとアプリ開放やっちゃいましょう。そんなコスいところで金取ってもタカが知れてるし、御社の企業規模だとそこで数千万/年ぐらいの売りが取れたところで維持管理運営営業コストでぶっとんじゃうでしょー?w それだったら仕様ざっくり公開してそれなりに勝手アプリを集めちゃった時点で上層部も次モデルで「アプリキャスト機能を落とそう」なんてディシジョンはやりにくくなるはず。如何?www

*1:彼等が嫌がる新機能には及び腰になる