家電業界はもっと商品責任者を前面に押し出したマーケティングをしてもいいのではないか

サマリ

「家電関係で仕事をしていて知らないと恥ずかしい日本人100...が浮かばないのはなぜか」というエントリーにする予定だったのだが、まぁあんまりネタに便乗してもね、ということでタイトル変更。家電業界ではWebやゲームと違って個人名が上がりにくい。やっぱり大企業が作っているから? それとも趣味性が低い商品だから? うーん、もっと出したほうがいいんじゃね? という内容。

車と家電の違い

趣味性が低い商品だから、という切り口は面白いかもしれない。車は家電以上に大企業"しか"作らない商品だが、ロードスターの平井さん、貴島さん・スカイラインの桜井さん。・NSX,S2000の上原さんなど、利用者ですら知っている"有名人"が結構いる。当然だがこのクラスの人たちになるとワールドワイドで有名人だ。スポーツカーなどは趣味性が非常に高いので、購入者が商品に対すして愛着を持つ傾向が高いはずだ。そういう愛着を持って接する商品だからこそ、開発総責任者を前面に押し出して「おもてなし」する。この人ならまたやってくれそうな気がする感とでも言おうか、それを煽ることで次期モデル含めたマーケティング支援をするのである。NC型ロードスター*1が出ると聞いたとき、正直不安だった。だが、その不安は『貴島主査がNCも担当しているらしい』という雑誌のニュースをみて吹き飛んだことを覚えている。『ああ、それならNA,NBと受け継がれてきた人馬一体感が殺がれることはほとんどないだろう』と。

どうして家電業界は個人を前面に出さないのか

だが、家電業界となると途端に個人が目立たなくなる*2。単価が低く、趣味性というよりは実用性一辺倒の商品がほとんどの為、責任者を前面に押し出す必要性に欠ける。さらに、モデルチェンジ速度が速いことが商品への思い入れを下げる原因になっている。だから、個人を前面に出す必要性が感じられないのです、なんてことをメーカーの人たちは言うだろう。とはいえ実際のところは"誰もメスを入れない家電業界の風習"みたいなものではないだろうか。Steve Jobsになれるかどうかはさておき、家電業界でも車業界にならって「この人がこの製品のトップだ」という人をメディアの前面にばんばん出してく、という戦略を今の今から考える、というのはありかもしれない。

昔とちがってBlogなどWebメディアもあるので実現のための金的・人的コストともにローコストになってきている。実際、BRAVIAの総責任者が発売後に開発秘話をBlogでつづる、なんてのはマーケティング的に結構イケるはず。だが現実は、なぜかBlogなりインタビューなりに「担当者A」が出てきてしまう。これでは不十分であることが、どうしてわからないのか。

尊敬する初代ユーノス・ロードスター開発主査*3が講演会で仰られた、心に残る言葉が1つある。

モノ作りに"民主的な開発"は不要!
衆知を集めたキレイ事ではスポーツカーはできない

いやまったくそのとおり。だからこそ、キレイごとじゃない部分(尖らせた部分)の取捨選択をした"リーダー"が"どんな人なのか"を発信することで、製品のブランドイメージを理解してもらってファンになってもらう。あわよくば次の製品のファンにもなってほしいと願いながら。そういう意味では企業規模は小さいが、任天堂の岩田社長が自社Webページでやっている開発者インタビューなどはうまくできているな、と思う。リーダー(岩田さん)も出しつつ、現場の人も出し、「岩田・宮本と愉快な仲間たち」による製品はこんなコンセプトで作ってるんですよ、というのがエンドユーザーの腹にしっかり落ちる。そしてまた「岩田・宮本と愉快な仲間たち」による製品が欲しくなるというエコシステムが実にうまく回っているように見えるからだ。

良い例外としての東芝 片岡さん

ちなみに名前が売れてる家電メーカーの商品責任者としては、東芝でDVDレコーダー商品企画を担当していた片岡秀夫さんが有名だ。実際の責任範囲がマツダの主査・ホンダのLPLに相当するものかどうかはエンドユーザーからは判断がつかないが、雑誌やWebのインタビューをエンドユーザーが見る限り『東芝 DVDレコーダーは片岡さんがまとめてる』という風に取れるようにブランディングされている。これは素晴らしいことだと思う。一部の「わかってる」人たちの間では「あの片岡さんがまたすごいものを出してくれた」「あの片岡さんだからすごいにちがいない」といった個人崇拝&勝手な想像で商品ブランドを補足する、という効果が実際に出ていたように感じる。まぁニッチなマニアックユーザー向けマーケットを掘るために効果的な手法だったから、というベタな落ちもあるんだろうけれども、それでも各社横並びでどこも開発者個人の顔が見えない中、これだけのことができたのはすごいことだと思う。片岡さんの発案なのか、マーケティング部隊の誰かによる発案なのかはわからないけれども。

おわりに

私もがんばって「キャズム超えの和蓮和尚が作る商品ならきっとすごいだろう」と思ってもらえるよう商品作りをがんばるとともに、個人を前面に出すマーケティングをがんばりたいなぁと思う次第。


※このエントリを書くにあたり、NSX LPL 上原繁さんのプロフィールを調べなおした中で、本田技術研究所を昨年9月にご退職されたことを知りました。ご卒業おめでとうございます。あなたの作る新しい車を見れなくなってしまったことは残念でなりませんが、第二の人生でまた人を感動させる何かを生み出してくださることを期待いたします。

*1:ロードスターは3世代発売されており、初代がNA型、次がNB型、そして現行型であるNC型、となる

*2:ソニーの森田さん井深出さん、SCEのクタラキさん、パナソニック松下幸之助といった大手メーカー幹部は置いといて

*3:マツダにおける開発主査とは、当該車種の全責任を負うプロジェクトマネージャーのこと