次期ATOMプロセッサは組み込み用途の夢を見るか 〜ATOM vs Cortex A8〜

たまには超業界的な話を書くのもよかろうて。会社(Cerevo)の技術陣との会話のなかでATOMプロセッサとCortexA8コアベースのARM系プロセサがアツい。ミニノートPCが売れてるよねーとかそういう話じゃぁない。組み込み系がPC系CPUに近づきつつあり、PC系CPUが組み込み系CPUに近づきつつあり、そしてIntelと組み込み系陣営が火花を散らすのか、そうじゃないのかという話し。

業界諸氏には説明も不要だろうが、身の回りにあるパソコンというパソコンはインテルのCPUで動いているというのに、身の回りにある家電という家電はほっとんどインテルのCPU(86系)で動いていない。家電製品ではARM系やSH系などと呼ばれる組み込み用途に特化したCPUが使われることが一般的である。iPodも ARM系だし、ニンテンドーDSもARM系だ(かなり特殊だけどw)。

ARM系に限らず、組み込み用CPUってのは低消費電力で動くうえに安価で量産に向く。また、多数の派生品がありチップ内部にUSBだのLANだのSDだのを組み込んだモデルがあり、それらは周辺チップ*1なしでそれぞれの機能を実現できるため、さらに安上がりとなる。『周辺チップなんて数百円のもんでしょ』と言うなかれ、3〜400円のチップ4つで約1500円。その4つのチップぶんの基板面積UP、抵抗や電源などを調整するための微小な電子部品類、それらを駆動するためのバッテリー容量の+αぶんなど諸々考慮すると材料費ベースで\2000近くのUPになったりする。これは定価にして+6000円相当になるわけなので、5万円以下で販売する商品にとっては致命的ともいえる価格差になるのだ。

勿論専門的なことを言い出せばARM系が組み込みに向いている理由などほかにも星の数ほどあるのだが、まぁざっくりといえばこんなところだ。勿論組み込み用に開発された86系CPUなんてものもあるが、まぁARMだのSHだのが主力だったよね、というのがこれまでのところ。

だがATOMプロセッサの登場で状況はだいぶ変わってきた。驚くほどの低価格と予想以上の低消費電力で組み込み用途という可能性が(現状のATOMでは難しいとしても)将来的に見えてきた。さらに面白い要素としては、PCの爆発的な普及により、PCワールドで培われてきたソフトウェアがそのまま通用するような組み込み機器が求められつつあるということだ。こういう方向を向き始めると、Intelx86アーキテクチャが俄然強くなる。「ちょと高いけど、PC用のソフトがそのまま動くメリットを考えると開発期間短縮のためにもATOM後継CPUを使おうか...」なんて検討方向になる可能性が出てくるわけだ。

対して組み込み用途CPUはというと、より高い処理能力が求められるようになってきて、むしろインテル86系プロセッサのようなものに近づこうとしている。組み込み用チップベンダーは「そんなところには向かっていない」と否定するかもしれないが、方向としてどう見たってそっち行ってるよね?というのは明らか。TIが出している携帯電話向け最新鋭CPU OMAP3530なんかはその典型だ。先日行われたDemo2009でもAlways Innovating社がOMAP3系ベースのネットブックをリリースしたばかりだが、こういった組み込み系がPC系に仕掛けていくようなアプローチがどんどん出てくるだろう。*2

超シンプルな$200ウェブタブレットが欲しい。プロジェクト参加者募集中
http://jp.techcrunch.com/archives/20080721we-want-a-dead-simple-web-tablet-help-us-build-it/

結果、価格帯的には夢物語でしかなかった上記TechCrunchエントリーのようなプロジェクトが、現実味を帯びてきている。これは面白い。そしてこれを ATOMベースで実現するのか、ARM等組み込み系チップで実現するのかがこれまた興味深いものとなってきた。まぁチップそのものの価格だけで全てが決まるわけではないものの、ATOMで行くのかCortexで行くのかとなると、レスポンス・バッテリライフ・価格・重さあたりのPros/Consを取って商品企画の勝負になるはず。つまり高価で重く、バッテリーも持たないが様々な強力なアプリが走るATOM系端末にするという案が1つ。それなりに安くて軽く、バッテリもよく持つもののよくチューニングされた専用アプリがいくつかしか動かないようなCortex A8系端末にするかという案がもう1つ。この場でどちらがいい、悪いの議論をするつもりはないが、これら2つの選択肢が比較的近い価格帯でせめぎ合うであろう現実が面白い、というわけだ。


PC系アプリ資産を活用しやすいという強みがインテル系にあるとはいえ、ARM Cortex A8コアを採用したOMAP3、i.MX51などのパワフルさは逆にネットブックぐらいの市場なら食いにかかってやるぞというぐらいのパワーがあるのもこれまた事実。OMAP3が内蔵するOpenGLアクセラレーターやDSPなどを活用したときの底力は、N270採用ネットブックの動画再生においての弱みを突いて花開く可能性もある。


さてはて勝負の行方はどちらへ転ぶのか。



飲んだ勢いでとりとめもないエントリーになってしまったが、パワフルな組み込みプロセッサと安価なPC用プロセッサが火花を散らしてくれることは、われわれのようなハードウェアを絡めたスタートアップ企業にとってうれしい話であるだけでなく、面白いガジェットを望むガジェットフリークなユーザにとっても良い方向であることは間違いない。

*1:USBやら有線LANやら液晶ディスプレイやらバッテリーやらを制御するための別チップ

*2:Impressの記事ではARM11ベースとあるが、AI社のWebにてOMAP3プロセサとの記述があるため、CoretexA8ベースの誤植だろう