高度オープンソースハードウェアの現状とビジネスモデル 〜チップを売るにはOpenSourceHardware化!?〜

先日Arduino関係のイベントをやって、オープンソースハードウェアについて少し説明する時間があったので、会で話した内容を含めてもう少しだけ詳しくオープンソースハードウェアの現状とビジネスモデルについて説明しておこう。尚、長いのでオープンソースハードウェアはOSHと略す。

3つのOSH

GainarやArduinoといった安価小規模マイコンに開発環境などがセットになった類のOSHはどちらかというとあんまりビジネスのにおいがしない。あるとしても、これらのボードを売って利益を得ようというケースだったり、関連書籍で売上を上げようといったものが多い。どちらかというとNPO的な出自に近いと言えるかもしれない。実際Gainarの出自はアカデミック(大学)だし、Arduinoもアカデミック向けに作り始めたのが元だと聞いている。これが1つ目。

Chumbyのアプローチは割と変態的だ。Webサービスプラットフォームを抑えておき、ここに接続することを前提としてHW仕様を開示してしまうというパターン。インフラ押さえて端末はFree、というそのビジネスモデルは電話会社(キャリア)に近いといえなくもない。昔々NTTが黒電話を作って配布しました、次にその仕様を開示して誰でも電話機を自由に作って売ってもいいよ、としました...という流れみたいなものだ。そのかわり、黒電話の仕様を用いるからにはNTTの電話網につなぐように作ることを強制する、というライセンス条項があったと思えばいい。これが2つ目。

で、本日の本題でもあるBeagleBoardSheevaPlugといった、最新鋭チップセットを使った高度なEVMをOSHとして提供している事例。これはそれらの最新チップのベンダ(BeagleならTexasInsturments)が、チップを売りたいがために資金を投じて設計・開発・販売するという目的で行われているOpenSource化だろう。特にTIのように多種多様な電子部品を作っているベンダにとっては、BeagleBoardに搭載されているOMAP3530というメインSoCだけではなく、オーディオ&パワマネ用ICであるTWL4030やDVIトランスミッタであるTFP410などもすべてTI製で固めることができる。そうなると、BeagleBoardの回路図をベースに作った派生商品ではオーディオはTWL4030、DVIまわりはTFP410でおのずと固まってしまう。TIとしてはBeagleBoardの開発に資金を投入したとしても、またBeagleBoardに対しては破格でICを提供したとしても、元が取れるというわけだ。MarvellがやっているSheevaPlugも先のBeagleと同じようなもの。TIほど豊富に自社チップを持っていないものの、SheevaPlugのBOMを見るとMarvellの88E116RというGbE PHYなどが載っている。

高いチップを載せたOpenSourceHardwareとOpenSourceSoftwareのいい関係

組み込み、特にBeagleやSheevaといった高周波で動くハイテク系組み込み機器への回路設計やらアートワークやらといったハード側の作業は勿論容易ではないが、ドライバ回りのソフトウェア側もかなり大変だ。一応ベンダーから提供はされているもののバグバグだったり、特定機能の操作部分についてはそもそも提供されていなかったりすることも普通である。

そこでOpenSourceSoftwareの強みが出てくる。OpenSourceHardwareとしてバラまかれたボードとこれに付随するオープンソースのソフトウェア群は、沢山のユーザーコミュニティの後押しによってソフトが改善され、より使いやすいものへと昇華してゆく。

結果、Beagleの回路図のとおりBeagleのBOMリストにある部品をつなぎこめば、かゆいところに手がとどくソフトウェア群の恩恵を受けることができるようになるわけだ。そうなると、なるたけBeagleのレイアウト、部品リスト(BOM)を変更しないでモノを作ろうと考えるのが普通だ。そしてTexasInsturmentsの本業である「部品売り」にきれいに繋がってゆくというわけだ。


特に中小案系では、電子部品におけるオープンソースのドライバまわりの整備状況は部品選定に大きな影響を与えることが多い。TIとしても中小案件に細かくかかわっている余裕はないので、Give and takeでBeagleをOpenSourceHardware*1で提供することで開発者コミュニティからOpenSourceSoftwareを受け取ることで、中小の案件を取りやすくしてゆく仕組みだ。一種、チップセットベンダーのロングテールかっさらい作戦と言えなくもないだろう。



従来の「EVM一台何十万円」「付属ソフトはNDAベースでしか使えませんよ」といったシステムや「関連ドライバは有料で提供しまう」といったビジネスモデルもこれはこれで確立したものではある。が、EVMそのものをチップベンダーが提供していなかったり、付属ソフト・関連ソフトはこれまた関係会社が作って飯のタネにしたりしていた。

OSHとOSSの組み合わせで激安EVMをばらまくというBeagleやSheevaPlugのアプローチは、チップベンダーによるEVMメーカーや関連有償ソフトベンダーを中抜きした新しいやりくちと言えなくもない。



まだまだこれからのビジネスモデルではあるが、まわりの組み込み屋さんのBeagleBoard等への注目度やこのあたりのSoftwareUpdateペースを見ていると、これはきっとそれなりに来るモデルなんじゃないかと思うと同時に、小資本でネット家電を作るぞというCerevoの動きと合致していてなかなか良いじゃないかと感じる次第。

多分ESECあたりでもいろいろ面白い展示が見れるんじゃないだろうか。

*1:もちろんSoft部分も大きいが