Wiiテレビの友チャンネルが家電業界に与えたメガ・ショックとは

ちょっと古い話になってしまったが、Wiiテレビの友チャンネル、ありゃぁ相当家電業界にショックを与えたよ、という話。

Wiiの新いチャンネル「テレビの友チャンネル」が先日リリースされた。日本のブログスフィアではあまり話題になっていないようだが、家電メーカーの中では蜂の巣をつついたような大騒ぎになって...いたはず。現に先日会った家電メーカーの人からも真っ先に出たのがこの話題だ。

このリリースで大きな意味を持つのは以下4点だ。

  • テレビの脇役だったゲーム機が"テレビ放送"そのものに絡む機能を搭載してきたこと
  • デジタルEPGデータ+ユーザー参加型メタデータという聖域にWiiというNot家電Butメジャーな商品で踏み込んできたこと
  • EPGデータの新しい表示方法が発明*1されたこと
  • UIを工夫すればリモコンボタンは1〜2個で十分だということを実証したこと

順に解説していこう。

テレビの脇役だったゲーム機がEPGを搭載

一部ネット系大手メディアでも書かれているが、TVを見ることが中心でゲームをすることはサブ、というのが従来のTVだったが逆になる可能性があるということ。テレビの友チャンネルが公開される前から、既に若年層の一人暮らしなどではこの傾向が始まっていた。テレビをあまり見ない20代独身一人暮らしの家などでは、TVを「外部入力1」から長らく切り替えていないなぁ、という人も多いのではないだろうか。

これは家電メーカー側にも責任があるといわざるを得ない。ぶっちゃけ「最後に見ていたチャンネルを表示する」なんて機能、いつまで積んでんだよって話である。

電源切って、30分以内に再度電源入れた場合はlastチャンネルを表示、そうでない場合はWindowsのデスクトップだかWiiのホーム画面だかに相当するメニューセレクト画面(今のTVだったらEPG+外部入力選択画面)でも出してほしいものだ。いつまでたってもTVが古いUIに固執し続けていたツケがこんなところで回ってきたのかな、という印象である。

ゼロベースで構想した新しいTVのUIについてはまた機を改めて紹介したい。

デジタルEPGデータ+ユーザー参加型メタデータ

東芝がHDDレコーダー向けに導入をはじめていたデジタルEPGデータにユーザーの予約履歴をかけあわせることで、番組予約ランキングなどを提示するサービスがあった。

これぞ家電ならではの要素、と家電メーカーの中では皆豪語していたものだが、あまりにも家電メーカー側のアクションが遅すぎたことがここでもつけいる隙を与えてしまったと言えるだろう。

DVDレコーダというDVDレコーダほぼ全てがネット接続機能を有し、視聴履歴・予約履歴・再生履歴・編集履歴・お気に入り番組リストなどを互いにシェアし合うことで提供される新しい価値(話題の番組を知る、面白い所だけ見る、など)サービスを早期に普及させてしまっていれば、Wiiテレビの友チャンネルを「そんな能動的にしか付与できないメタデータしか扱えない機器じゃぁ辛いねぇ(プププ」と笑い飛ばせた可能性も十分にあったのだが、もう遅い。

EPGデータの新しい表示方法の発明

EPGデータの表示手法については特許紛争が起きたりしていてちょっと根が深い問題なのだが、少なくとも素人目には3D表示をうまく使ったEPG表示手法は画期的なものだ。万人に使いやすいかどうかは別にしても、こういったEPGが世に出て高く評価されてしまうと、家電メーカーにとっては3重の苦しみが待っている。

1つは超複雑なあのEPGプログラムを完全リニューアルする必要性に迫られる可能性があること。もう1つは3D-EPGを表示するためのハードウェア側の仕組みを搭載しないといけないということ(現在のTVでは相当厳しい)。そして最後に、ボタン式赤外線リモコンから、ポインティングデバイスを備えた入力デバイスに変える必要性に迫られることだ。どれも目ん玉が飛び出るほどのコストと人的リソース、そして決裁書の山がなければ実現できないことであり、「任天堂め、ややこしいもん出してくれたなぁコンチクショウ」と思ってるギョーカイ人は少なくないはず。

逆に言えば業界全体が「先進的すぎるもの・価格が高いものはユーザに受け入れられない」というエゴ文句で進化を停滞させていた、言ってしまえば製品制限カルテルになっていたわけで、これで正しい競争に戻る可能性がでてきたとも取れる。エンドユーザーとしては歓迎すべきことである。

あと細かいところでは、今回の3D-EPGでどういった特許が発生していて、ADC*2並びにGML*3との力関係、今後の家電メーカーへのライセンスの有無などが気になるところだ。

リモコンボタンは1〜2個で十分!?

まぁこの話を書くとコアなユーザーからはいっぱい文句が来るのは覚悟の上だが、以前書いたことが現実になりつつあるなぁという印象。家電メーカーはハードのUI設計は得意だがソフトのUI設計はからっきしだ。にもかかわらず現実はその分野での戦いに引きずり込まれている。

携帯電話でiPhoneショックが起きたように、DVDレコーダーやTV、PMP(Personal media player)などでも同様のプレイヤー入れ替えが起こる可能性がまだまだありそうだ。

参考: http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20070305/p1

(おまけ)次に何が出るのか妄想

ここからはめくるめく妄想の世界。もわーん

  • Wii録画ボックス」USB接続でデジタルチューナーがついたHDD入りのボックス
    • まぁWiiがハイビジョン出力を持っていないので、当該BOXにHDMIを付ける、なんてトリッキーなことをしないとデジタル放送を楽しめないのでさすがにこれはないかな。でも妄想の1つとしては面白い。但し、DS用ワンセグTVがバカ売れしたとはいっても所詮ニッチマーケットだったように、テレビ売り場・DVDレコーダー売り場への進出は想像以上に難しく、出したとしてもPSXの二の舞になることは避けられないだろう。
  • PSXWii版(デジタル録画機機能内蔵Wii)
    • Panasonicと仲良しのNintendoのこと、やってやれないことはないがPSXの徹を踏まないようにする戦略や、ハイビジョン出力問題などが絡んでやはり難しそう。GameCubeの時はPanasonicブランドで"Q"なるDVDプレイヤー&GameCubeデバイスを出していただけに、0.01%ぐらいの確立でありうるかもしれない。
  • Wii向けに大規模VOD/動画共有サイトを開始(或いは連携)
    • これはまだ現実的かも。実際すでに小規模とはいえビデオ配信を行っているだけに。多数のビデオをセレクトする手法として今回のEPGをベースにしたビデオ検索・一覧システムを搭載する可能性もあるだろうし、おすすめビデオをレコメンデーションする手法として今回の投票システムが活用される、ということもありうる....わけないか。
  • Wii内蔵テレビ登場
    • まぁほとんどジョークに聞こえるが実際ファミコンTVはあったわけだし、家電メーカーの(ネット系に尖った)企画部門では一度は必ず話題にあがっているはず。実はすでにS社と検討が具体的に進んでおり、そのTVではなんとWii版のEPGを使うことで話がまとまりつつある!! とかだと面白いんだけど。WiiTV発売と同時にレコメンデーションの恩恵を受けられるよう、Wii版のEPGのみ先にリリースしてメタデータを溜め込んでおこう、という戦略....とかそんなんだったりして。でもセンサーバーをTVに内蔵できることでスマートになるし、まったくなくはないんじゃないかなぁという印象でもある。

まぁ妄想は尽きないがこれぐらいにしておきたい。


※でもこちらの記事「薄型テレビが年末商戦を上回る成長率」にあるように、こんな状態でも普通の人はばんばん今のTVを満足して高い金出して買ってしまうからイノベーションが起きない。そういう意味では今回のWiiテレビの友チャンネルの登場は、画質以外の部分で進化が停滞してしまったTVに渇を入れてくれるのではと密かに期待している


オナニーエントリーのつもりがはてブが多くて驚きを隠せない。1点フォローしておくと「Wiiテレビの友チャンネルからTV電源ONOFFできないから意味ねー」という話だが、技術的にもリーガル的にもWii側の作り方次第で「Wii電源ON/OFF→TV電源ON/OFF」はすぐに可能だ。単純に財団法人家電製品協会(家製協フォーマット)でセンサーバーから出力すればいいのだから。じゃぁなんでやらないのかってぇと、たぶん「じゃぁTVがついてる状態だったらどーすんだべ。Wii起動と同時にTV消えちゃうじゃん」とかいうものすごく原始的な仕様が社内的に解決できなかったからなんじゃないかなぁと予想。これとてNintendo側のディシジョン次第では、テレビの友チャンネル次回VersionUP時に

「リモコンの電源ボタンを押すとWiiの電源が入りますが、そこでTVの電源も合わせて入れたい場合は(1)ボタンを2秒以上長押ししてください。本機能は"TVの友チャンネル"にてリモコンでTVを操作できるよう設定されているお客様に限りお使いいただけます」

なんて1行が追加されてさっくり解決、なんてパターンになっちゃうかも!?

*1:厳密には発明ではないかもしれないが、メジャーな製品に搭載されて周知されたことが重要という意味

*2:日本国内で2D-EPG表示の知財を所有している会社

*3:ジェムスターマルチメディア社の略。Gemstar Multimedia Limited。海外において2D-EPG知財を所有している会社。今回のG-Guideを提供している会社でもある