大手メディアが書かない、CES2017の実態(出展者目線)

CES2017が閉幕して1週間ほどだったが、やはり、大手メディアさんはメディア視点。私は自社ブースにいたのでほとんどCES会場を見て回れていない、という点を釈明したうえで今回のCES2017について私なり(5年出してる出展者目線)の感想を述べたいと思う。

Alexa, Alexa and Alexa

家電から車まで、何もかもがAmazon Alexaに蹂躙された」「スタートアップシーンのほぼすべてはフランスに持っていかれた」この2点に尽きるCESだったなというのが感想だ。会場どこにいってもAlexa, Alexa and Alexa。昨年のCESではほとんど影も形もなかったAlexaだが、大手からスタートアップまで、ありとあらゆるハードウェアがAlexaに対応、会場のどこへいってもHey Alexaの声を聞く羽目に。

ぶっちゃけ、あのレベルで生音声を集められてしまうと、もう戦えるプレイヤーはGoogleぐらいしか残っていない。Google homeが白旗をあげたそのとき、Alexaのグローバル・デファクトスタンダードが完成することだろう。8年ほど前、日本のオーディオ関連会社すべてがiPod/iPhoneに白旗を上げたように。もちろんGoogleは強大な体力を誇るゆえ、巻き返してスマートフォンにおけるAndroid/iPhoneのような二強となる可能性はまだまだある。しかし、少なくとも本年のCESを見る限りではAlexaが圧勝したことに異を唱える人はいないはずだ。会場をざっと見回しただけでも数百を超える機器がAlexa Enabledとなり、車から冷蔵庫まで、徹底的にVoiceControlを押し出していた。もちろんクラウドベースの音声認識解析エンジンで日本が勝てるとは思っていなかったが、ここまでAlexa一辺倒になってしまうとは、正直予想できなかった。

French start-up wave

他に注目すべきポイントであり、日本のメディアで多く語られていないポイントはフランス系スタートアップの驚くほどの躍進だ。数年前からLa French TechやHardware clubといったフランス系のハードウェアスタートアップを支援する団体が大変意欲的に活動していて注目していたが、今回のCESではその活動が実り、ハードウェアスタートアップといえばフランスをWatchしないでどうする、というほどのイメージを来場者に与えていた。中国や韓国もEureksParkで積極的なナショナルパビリオン展示をしていたものの、全てにおいてフランスの強さが際立っていた。

何がどう際立っていたかと言うと、まずどれもこれもデザインがヨーロッパテイストでかっこいい、あるいはおしゃれ。これは中韓がマネできないところ。そして、商品の目のつけどころがどの会社もユニーク。中国パビリオンにありがちな「なんかどれもどっかで見たようなもの」になってはいない。これはデザイン性の部分も多いにあると思う。ただのアクティビティトラッカーであっても、アプリのUIから本体のデザインまで一貫したデザイン性があれば、おっ?となる。そしてなによりも、La French TechやHardware clubの連中がしっかりと目利きをしていて、ユニークかつハイデザインな商品にだけ彼らのチームに引き入れているように見えた(実際どうかは知らんw)。

純フランスかといわれるとそうでもないのだが、深センでハードウェアスタートアップ向けの投資育成事業をやっているHAXもCES直前に大きな3rdファンドの組成を発表している。シードラウンド中心にしか投資しないインキュベーターのファンドなのに、150ミリオン(約170億円)のファンドだ。彼らHAXも創業メンバーの多くはフランス人ということで、2017年のハードウェアスタートアップは相当フランス系の方々が舵を取っていくのかなという印象。もちろんHAXは投資先の大半が米国ではあるのだが.....。

悲しいかな、日本のニューカマーがどかんとプレゼンスを出していたなぁという印象はナシ。Sevendreamers、WHILL、Primesapぐらいがやや善戦、あとは手前味噌だがCerevo。勿論ソニーパナソニックなど大手メーカーは例年のようにプレゼンスを出してはいたが、フランスや中国のようにニューカマーが続々登場してでかいブースを構えて人を集めるというようにはなっていなかった。

トヨタやホンダ、日産は相当力をいれてCESのためにコンセプトカーを仕上げてきたが、欧米・韓国の自動車メーカーはほとんどコンセプトカーを出さなかったのが印象的。トヨタのコンセプトは何だろう、こう、広告会社の匂いしかしないというか。トヨタが出したというより広告会社がトヨタの予算を使って出したような印象。直近のコミットメントが見えないコンセプトカーは、日本自動車メーカーの日本人らしい消極的な解にみえて、やや悲しい思いになった。技術をもっているがリスクは取りたくないという日本メーカーらしいアプローチには『ぐだぐだ言ってへんではよ売れや!』と言いたくもなる。コンセプトカーのような派手さはないものの、市販車すべてを順次Alexaに対応させますよと言ったフォードのほうがよほど先進的で、意欲的だなと感じる。リスクを取らない人たちはいずれリスクテイカーにやられて死ぬはず、なーむー。

その他ジャンルの規模感遷移

ドローンはやや縮小気味。NAB(映像放送機器の世界最大の展示会、CESとは別で同会場にて4月に行われる)ではものすごいいきおいでドローンが伸びているだけに、コンシューマー領域では頭打ちになって、よりB2Bに振っていく業界なんだなという見え方。2016年にはクラウドファンディングで大きくお金を集めた小型ドローンのZANOが倒産し、つい先日CES終了直後の1月10日にはこれまたクラウドファンディングで大成功した防水折りたたみドローンのLillyがプロジェクトの中止・返金を宣言と、コンシューマー向けドローンはやや茨の道。CESのドローン展示スペースがやや元気なかったのも頷ける。

IoTと呼ばれる製品群は活気がありすぎて分野の細分化が著しかった。スマート家電、だけではなくBaby tech(スマート赤ちゃんデバイス)やSleep tech(スマート睡眠デバイス)、Sports tech、Pet techなどと細分化。どこも盛り上がっており、2017年はより幅広い領域にスマートデバイスが浸透していくなと感じた。特にベイビーテックとペットテックは、日本ではイヌパシーぐらいしかプレイヤーがいない状況(しかもまだ製品は出せていない)のなか、20社近いベイビー・ペット向けデバイスに特化した会社が積極的営業をしていて、これは日本まずいなぁという状況。

なくなると思ってた3Dプリントは割としぶとく残っていた。が、やはり客足はさほどでもない。来年縮小かなーこれは感。技術はどんどん進歩してるが、先の読める進歩でなかなかWhoa!(今年のCESのテーマでまぁ、わ〜お!的な意)がない。

国感でいくと、韓国が後退しきったかんじでフランスが防前述の通りぐいぐいきてる。中国はまぁもう語る必要がないほどギョーカイナンバーツー。むしろワンの米国にグイグイ攻め込んでる感じ。日本は韓国と同じ感じで新規プレイヤーが出てこないので相対的に米中に差をあけられていってるかんじ。

と、まぁとりとめもない内容となったが、最後に言いたいことは『なんでこんな世界盛り上がっとんのに日本人誰もやってへんの?』ということ。びっくりするぐらい世界はIoTに向いていて、ハードウェアスタートアップ、あるいは数年前スタートアップだった中堅企業がすごい勢いで攻めているというのに、ここ2年で日本のハードウェアスタートアップは20%ぐらいしか増えていない・・・・・という何となくの体感値。少なくとも、CESという世界最高のIoT展示会の場でプレゼンス出してやろうぜという会社が全くと言っていいほど増えていない現状は、悲しいを通り越して辛いぐらいの感覚。

今年各メディアに日本のハードウェアスタートアップはどうですかというインタビューを受けたら、あのCESの惨状をあなた見てないんですか? と答えることにしたい。ただ唯一の、そう、まるで1本の蜘蛛の糸のような頼りない望みといえば、本年のCESはここ10年以上私が見てきた中で最も日本人の参加者が多かったんじゃないかと感じたところ。詳しくは例年CTAが発表している国別来場者数のデータを待ちたいが、あそこまで日本人が多かったということは、危機感を感じてくれた日本人も多かったはず。刺激をうけて、俺らもやるぞ!と旗を上げてくれる同志が2018年1月には激増してくれることを期待し、本年はみんなでCES2018攻めるぞーというロビー活動をして回りたいとおもう。

そんなことをやっても一銭の得にもならないのだけれど、日本に生を受けた身としてあまりに悲しすぎるので。

おまけ

今年のベガスはくっそ寒かった。ダウンジャケット持ってきてしまってミスったなーと思ってたが正解。

来年のCESは1/9から。アンベイルは1/7だろう。正月ツブれないのでやや行きやすくなったはず。行ってみたいというかたは、一ヶ月前までフリーキャンセレーションなので会社や家族との調整はあとまわしにしてまずはExpediaでホテル予約。すでに高級ホテルやお買い得ホテルは売り切れているが、いまならパレスステーションホテルが$38/dayだ。行くかどうかは予約しといて12月までに考えれば良いこと。パレスステーションはアクセス悪いがこの値段なら全移動UberまたはLyftでもかまわないはず。

See you in CES2018.