iPhoneが本当に怖いのは1年後!? アップデートを政治的に許せる体制はじわじわ効いてくる

折角話をUIとかアプリとか無難な(話題になりやすい)方向に持っていっておいたのに、弾さんがギョーカイ話に引っ張り戻しちゃったのでしょうがないのでリアルな話を。はてブなどで弾さんのエントリーに対し、信者乙/話のすり替え乙っぽいコメントが散見されるが、ギョーカイ的にはいい線突いてるなぁというのが正直なところ。実際私も飲みの席なんかではiPhoneそんなにけなしてない、っていうか「後が怖いよねー」という話をよくしてる。

ちょっと弾さんのエントリーを補足すると、日本のケータイ業界はデザインだとかSPEC競争に引きずり込まれてしまっている。つまり、数値に出るものや、星取り票に出るものだ。何百万画素カメラ、何インチ液晶、ナントカ機能つき。下記PDFを見ていただければ、ああこれね、と思い出すものがあるんではなかろうか。

SoftBankMobile機種ラインナップ一覧

SoftBankMobile携帯電話機能一覧


結局のところ、ガラパゴスが云々といっているのは、半年ごとに外装からソフトからごっそり交換して*1星を取りにいくことをキャリアから(暗に)求められ、自社ではプラットフォームを持つことがなく、キャリアの決めたゲーム・ルールに従って端末を納品するしかない国内のメーカーと、独自にルールを決めてビジネスができるiPhoneはじめとする国際系端末の違いは大きい。そこまでやろうとする気合の入ったメーカーが、国内にはAppleしかいなかったというだけで、海外ではちょくちょくこういった絵を描いた端末は存在する。NokiaNゲージなんかもその一種だし*2

従来型の国内メーカーからすると、初代iPhoneから3G iPhoneの発売までの期間が1年間と長いことがそもそも型破りである。で、それよりもデカい話は『政治的に古いiPhoneの中身を最新版相当にアップデートすることが許されている』環境にあることだ。

弾さんのエントリーに下記のようにあるが、厳密には違う。

確かに、日本のケータイの完成度は高い。高くなければならないからだ。ダメなところを後でほとんど直しようがないからだ。そりゃファームウェアアップデート程度はなきにしもあらずだけど、アプリケーション単位でアップグレードなんて、ない。もしあったとしても、ケータイ屋にわざわざもっていかなければならない。

ファームウェアUpdateの仕組みはほとんどの端末が持っているし、OSレベルで入れ替えができる。アプリケーションだって仕組み的にはUpdateできる。現に今私が使っているSoftBank911Tだって、内蔵アプリケーション(モバイルSUICAアプリやドキュメントビュアアプリ)の不具合修正がかかっている。どちらも電波経由でUpdateが可能だ。PCが不要なぶんiPhoneより進んでる?と言えなくもない。

http://mb.softbank.jp/mb/information/details/070326.html

日本でよりよいケータイを手に入れるには、事実上新機種を買うしかない。Docomoなら70Xだの90XだののXを一つ足すためだけに、ハードウェアごと交換ということだ。

ただ、この点はそのとおりなのである。要は、技術的にできるできない、仕組みが用意されているかいないかではなく、大人の事情でできない、というわけだ。南無


だってそんなことして古い端末をソフトウェア的には最新端末同等にされちゃったら、機種変が減って怒りますよねぇキャリアさん。最新機種のハードウェアリソースがないと動かない高額アプリなんかが売れなくて困りますよねぇキャリアさん。半年1回のリニューアルをやらなきゃならず、3キャリア向けに半年ごとに5〜10端末とか作ってる中ではリソース的にも無理ですよねぇメーカーさん。競合他社を蹴落とすためには常に最新機種を投入し続けて、物量作戦についてこれなくなるまで踏ん張るしかないメーカーにとって市場が既存機種で甘んじてしまっては困りますよねぁメーカーさん。



でもAppleならできる。別にJobsがクレイジーだからというわけでもなく、Appleの優秀なエンジニアがパナソニックやシャープの100倍働くからできるというわけでもない。重要なので冒頭で言ったことを二度言うが、戦っているゲームのルールが違うからである。

  • 端末サイクルが1年と長いうえ、人的リソースを1端末に集中させている
  • キャリアの既存ビジネスと切り離されていて独自に仕様決めができる
  • やれxxアプリに対応してくれだの、xxメールに対応してくれだの、xxうたに対応してくれだのといった縛りが極小
  • AppStore,iTSプラットフォームでユーザーを縛っている(じわじわと効いてくるので見えづらい)

結果的に1端末あたりのR&D費が安くなり、金型費・基板設計費が*3も安く、マーケティング費用やその他細かい経費*4においても大きなアドバンテージがある。で、その上でだ。別にソフトウェアアップデートで初代iPhoneからiPhone3G、次の世代iPhoneへと移る中で買い替えユーザが増えてくれなくても、彼ら的にはそれほど痛くはないはずだからだ。開発費が安いから、という理由も勿論あるが、そもそも市場がでかすぎ、彼らはニッチプレイヤーだからだ。30%あるシェアを32%にすることより、0.5%のシェアを2.5%にするほうが遥かに簡単である*5。そのうえで、AppStoreとiTuneStoreというプラットフォームにユーザーを取り込むことができ、3世代先、4世代先での買い替え需要を予測することができる。別にiPhoneユーザーは3Gに、その次に、と次々に買い替えしていってくれなくてもかまわないというわけだ。いつかは買い換えてほしいけれど、それがAppleであることが確実なのであればとやかく言わない、という姿勢。

※ここまで考えた上で、あえて羽目殺しのリチポリバッテリという選択肢をやってきたとしたら驚きだが、単にデザイン面(基板レイアウト含む)と強度面からのものだろう。


ここが国内メーカーのビジネスモデルと決定的に違うところだ。UI等でファンになる、いわゆる「P派」「N派」「SH派」と言われる固定客の買い替え需要というパイが相当厚いのだが、この人たちをひきつけることが出来るのは、当該ユーザーがそろそろ機種変したいな、と思った時点における自社最新端末のハードウェアスペックでしかない。

対してiPhoneは自社PFを持っていることから、日々愛用している「Big Canvas Photo Share」「midomi for iPhone」「Zeptpad」などのアプリケーションや、iTuneStoreで買える「宇宙空母ギャラクティカ」「twenty four」だったりが"Apple派"を刺激する。うちの端末じゃないと楽しめませんよ、と。

そして本日本題のソフトウェアアップデートをかけることで、買い替えサイクルを伸ばすことができる。本来であれば半年〜10ヶ月ぐらいで新端末に目移りしかけたユーザーの後ろ髪を、Software Updateでむんずと捕まえて引き戻す。或いは1年半で新端末に目移りしかけたユーザーの耳元で、熱い吐息をふっと吹きかけながら「半年待って次のSoftwareUpdateと、弊社の新端末を見てからでも遅くないんじゃない?(うふーん)」と囁きかける、なんてことができたとしたら。



と、こう書くとAppStoreやiTuneストアでアプリや曲が売れて、そこからチャリンチャリンと入ってくるからAppleは儲かる、だから...というビジネスモデルを書く人がいるかもしれないが、多分そこは大して利益を取ってない。AppStoreなんてフリーでいいソフトが一通り揃ってしまったら、SDK販売フィーでフリーアプリの配信費用を賄うというぎゃんぶらぁな仕様のはず。



というわけで、ギョーカイの人からみても、弾さんの指摘は(枝葉末節の誤りはあれど)方向としては同じような意見ですよーということで、じゃぁいったい何でメーカーはそういうことやってこなかったのよ、とかできなかったのよ、という面を説明してみた。意味不明なポイントがあればコメント等で指摘いただければ可能な限り対応...できればいいなぁ(遠い目


※なんかメンドウになってきたので文章的にキレイにまとめることは放棄。商業メディアで語ってくださいとか言われたら推敲する、ぐらいにしておこう。これがBlogの楽なところ!


※と思ったらタイトルでtypoしていたので流石に修正w

*1:まぁ中身ほとんど一緒だったりすることもあるが

*2:成功したかどうかはさておき

*3:半年サイクル端末と比べ

*4:ユーザーサポート委託費、箱や説明書を起こす費用等安いとはいえ発生するので

*5:まぁ0を0.5にするのは大変なんだけれども