家電メーカーは3D対応テレビで地上波の呪縛から逃れ、価格下落に歯止めをかけられるか?

テレビはコンテンツに引っ張られる。これは業界特性上当然のこと。そういう意味ではハリウッドでの3D映画製作の流れに対してテレビ受像機メーカーが3Dに進むのは当然といえば当然。2009年1月のCESでSamsung、LG、PanasonicSONYがそれぞれ一挙に3D映像デモンストレーションを行ったことからも、その潮流は見てとれる。

と、こう書くとえらくきれいな話のように聞こえるが、国内では地上波D放送、USではBlu-rayをそれなりにきれいに写せればテレビなんてなんでもいいじゃんという流れで価格下落に歯止めがかからない、という現状を何とかしたいメーカーの苦悩が透けて見える。ディスクメディアの規格更新頻度と放送波の規格更新頻度とはかけ離れたスピードでデジタル家電コモディティ化、価格下落が走ってしまう現状に対する藁をもすがる回答が、ハリウッドの最新コンテンツを再現するテレビの登場、というわけだ。

3D映像技術の概要

感覚器官を"だます"ことになる3D映像は目が疲れることは確かだが、得られる感動が大きいのもこれまた事実。同様に感覚器官をだますことによって実現しているドルビーDTSのような立体音響とそう大きな差はない普及になるのでは?と予想する。といっても現時点でDTSを楽しめる世帯なんて10%もいないだろうから、当面はその程度の数値が上限になるだろうが。


立体的にものを見せることのアプローチは大きく分けて2つ。徹底的に解像度を上げて行き、実物と見紛うばかりに仕立て上げるか、左右の目に強制的に別の絵を放り込んでやるかだ。

前者は目が疲れないが、後者は目が疲れる。前者には画面から飛び出してくるような奥行き感は出せないが、後者には(目をだましているとはいえ)それがある。マニアには評価されにくいが、シンプルな感動と言うべきか、割と誰にでも「おおっ!」と言わせることができる技術である。

もっとも、最近はアクティブシャッターメガネ方式が主流になり、ディスプレイのリフレッシュレートもあがり、目の疲れがだいぶ減って完成度が高まってきている。残像を削減するための高リフレッシュレート液晶/PDPの技術がたまたま生きた、というところだ。

現状の進捗とPanasonicのリード

そして何よりも、4k2kなどの高解像度アプローチと違い、3D映像再現にはディスプレイパネルそのものを新規開発する必要がなく、すぐに市場投入できるというメーカー側の都合がある。先日行われたAMNのイベントにて、Panasonicで3Dディスプレイを開発しているPAVC社の末次さんの話を聞いた。曰く『今のテレビシステムに手を加えるだけですぐに、安価に実現できる』という。実際、Panaの現行テレビで採用されているPeaksPro2というプロセッサでそのまま動いているというから面白い。

残像処理とパネルの大型化ぐらいしか差別化要素がなく、メーカーが一番好まない価格競争一辺倒の世界に一直線……という嬉しくないスパイラルから脱するために、この方向性は一筋の光となることは間違いない。ま、簡単に実現できるということはすなわちまたすぐ今の状況に戻ってきてしまう、ということでもあるのだが……。とはいえ一時的には状況を打開できるわけで、デジタル家電の世界はこのプロセスの繰り返し、ともいえるのでそう悲観的になることもなかろう。

余談だが、Panaはなかなか展示会に面白いもの(コンセプトモデル等)を出してこない。が、出してきた時は実際に家電のプラットフォームで曲がりなりにも動いていたりすることが多いのが特徴だ。家電の、というのは中身がCore2Duo+GeForceとかだったりしない、ということ。

通常こういった「CE Platformか?」といった質問にはなかなか答えてくれないものだが、あっさりとPro2、それも複数個搭載といった裏ワザを使わず1個のPro2でちゃんと動いてまっせ、という点を教えてくれたことから自信のほどが伺える。えてしてちゃんと動いてるときは動いてると答え、そうじゃないときは『答えられません』としらばっくれるからだww

閑話休題

放送とディスクメディアの遅い規格更新ペースから逃れられるか?

ちょっと爆弾発言的になってしまうが、日本のマーケットにおいてはテレビコンテンツが地上波放送に依存しすぎているところがある。Blu-rayコンテンツを購入してもネット配信で購入しても、同等クオリティの映像が地上波で流れてくる。そういう意味では、受像機の3D化は地上波放送の進歩ペースを超えて映像表現を進化させ、地上波から離れやすくする、言い換えれば地上波では得られない+αの価値をわかりやすくユーザに示すための1つのパーツにはなることは間違いない。なぜなら、データ量が倍増して電波での配信が困難になるうえに、(当面は)一部受像機でしか再生できない3D映像を広くあまねく電波配信するわけにもいかないからだ。

わかりやすい感動を生む技術と新しいコンテンツの組み合わせ、という3D映像表現のアプローチは巻き戻し・早送りが不要な高音質音楽メディアであるCDが登場したときに近いかもしれない。ぜひとも高品位な3D映像をBlu-rayやネット配信によって供給し、地上波の進歩の遅さに引っ張られることなく映像表現を進化させていってほしいものである。また、ネット家電推進派として、試験的でもいいので3D映像のネット配信を是非、とお願いしておきたい。ちなみにマーリンDRMによる3D映像のネット配信については『現状全くノープラン、規格も決まってない(Panasonic PFC後藤さん)』とのこと。

個人的には3D化による没入感UPが確実に得られるゲームコンテンツに期待がかかるところではあるが、映像表現でゲーム界をリードしているSONYが3D対応テレビで1歩出遅れている現状ではまだまだ先の模様。まずはPHLチューニングによるハリウッドコンテンツを堪能してから、という流れになろうか。在籍していたことがあるからと肩を持つつもりはまったくないが、PHL*1でチューニングされたPanasonicのハリウッド画質はこういった"初モノ"には滅法強いので期待したいところだ。

余談

Panasonicのイベントにいったら昔の先輩方が何人もいらっしゃってとっても恐縮したorz とはいえあえていち招待者としてCC本部*2の皆様にコメント申し上げると、技術的に濃ゆい人とそうでない人をごちゃーっとまぜてまとめてポン!という感じでイベントやるのはいまいちな感じ。折角AMNさんを交えてやるんであれば、もう少し細かくブロガーさんをセグメント分けすることもできたはずじゃないかなぁと。技術的に濃い人には薄っぺらい感じで、薄い人には濃すぎる感じというどっちつかずのイベントに落ちちゃった感じが(中で頑張っていた開発者の皆さんを存じ上げているだけに)とっても残念。

また、本会の解散後に末次さんをぐるりと取り囲んだ「濃い人達」と末次さんの間での、実に深くおもしろいQ&Aの嵐が、Panasonic某氏の時間切れコールで中断されてしまったのもとっても残念。もし何なら二次会にでも移動して...というご提案とSETだったが、夢から覚めてしまったかのように皆さんその場で解散してしまたのはPanaさんにとっても勿体なかったんじゃないかなぁと。


あと、テレビの技術面に話をフォーカスしたかったのはわかるが、映像制作に関係したメンバーがいなかったのも残念。新しい映像コンテンツを再生するという仕組みの関係上映像側に興味を持つユーザが多いのは必然だ。テレビ開発系部署から1名、映像コンテンツ制作/チューニングに携わった部隊から1名、といったラインナップでやるべきだったんじゃないだろうか。次回以降の参考としていただければ幸いである。

*1:Panasonic Hollywood Lab

*2:今回のAMNイベントを仕切っているっぽかった広報系の部署