進まぬ『製品』レベルでの産学連携をクラウドファンディングで打破! 塚田先生×Cerevo、イーテルミン製品化へ向けて始動

イーテルミン・プロジェクトの概要

Cerevo DASHの新規プロジェクト『イーテルミン』について、ちょっと語っておきたい。
イグノーベル賞を受賞されたことでも有名な塚田 浩二(Koji Tsukada)先生と株式会社Cerevoが連携して立ち上げたクラウドファンディング・プロジェクトで、大学の研究によって生まれたアイディアを現実的な価格の製品として世に、もちろん世界に向けて発売しようじゃないかという試みである。クラウドファンディングの仕組みについてはこちらの30秒でわかるスライドを参照。つまるところ、大学の研究室で生まれた商品アイディアを、製品化にむけての開発費リスクをクラウドファンディングによって抑えて商品化する、という新しい産学連携の試みである。

イーテルミンの詳細についてはCerevo DASHの当該ページを見て欲しいが、1行で説明すると「具材を口に付けた瞬間に『パクパク』『ガブリ!』といった音が鳴るフォーク&スプーン」である。

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製品版イーテルミンの外装イメージCG

産学連携といえば要素技術ばかりで製品には遠い

きっかけは、日本の大学では素晴らしいプロダクトの種がそれこそ星の数ほど作られているというのに、製品化されることがほとんどないように見えたことだ。プロダクトの研究をなさっている塚田先生に聞いてみたところ、やはりその見かたは間違っていないという。ここでいうプロダクトとは、素材や加工方法・製造装置といったものではなく、最終製品のことを指している。

大学は基礎技術だけやっていればいいのか? あるいは素材、製造方法といった分野だけの研究をやるべきなのか? 私は3年ほど前に塚田先生と出会って、自身が生み出したengadgetならぬ"変ガジェット"を沢山見せてもらって、『いやいやそんなことはないだろう、だってこんなアイディア企業の商品企画じゃでてこないよ』と感じた。ただ、同時に『こんなアイディア、企業...特に大企業は製品化しないだろうなぁ』というのも同時に感じていた。

クラウドファンディング×極小コスト開発×小ロット生産でへグローバルニッチへ

3年前にはなかなかいい解がなかったのだが、時流れて2012年。昨年からクラウドファンディングが流行し、これはいける!と思って塚田先生のところに何かやりましょうとご相談に伺ったのである。プロダクトを作るには設計費、金型費、認証取得費、その他もろもろたくさんの初期費用がかかる。イーテルミンもそうだが、こういったちょっとぶっ飛んだ商品は売れるかどうかを判断することが非常に困難であるため、誰がリスクを取って初期費用を払うんだという話にもなる。だが、ここ数年のインターネットによるモノづくり初期費用の激減っぷりは著しく、(このへんはこちらのエントリーを読んだあとにクリスのMAKERS―21世紀の産業革命が始まるでも読んでみるといい)シンプルな商品であればクラウドファンディングでもそのかなりの部分を賄える状況となってきた。

そこで、クラウドファンディングによる市場性の確認、つまり商品イメージを考える、デモ機を作る、デモをする、Cerevo DASHなどのクラウドファンディング・サービスに掲載する……というところまでを大学側が、その先の量産品の設計開発と販売をCerevoのような企業側が行うという分担ができれば、大学発商品の市場流入が加速度的に行われるのではと考え、実行に移したのがイーテルミン・プロジェクトというわけだ。

ここのところ取材や講演などで繰り返し言っていることだが、これから小ロット多品種展開のものづくりはHOTになる。家電業界は元気が無いとか言っているひとたちがいるが、それは単にワールドワイドで数百万台を売ることで高額な販促&流通コストをペイするというモデルが厳しくなっているというだけ。若い学生さんや研究員さんの柔らかい頭でひねり出した商品、最先端の研究内容が詰められた商品がニッチな層にしっかりと刺さるように企画・製品化されれば、高額な販促&流通コストを支払わなくても『欲しい!』と思った人たちが直販で買ってくださる。世界でここにしかない商品を作ることができれば、英語版Webページを作って展示会にちょこっと出すだけで、アメリカやEUだけではない世界中のあらゆる地域から『売りたい』という声が届く。現にCerevoが売っているLiveShellはユニークすぎる故か毎週のように聞いたことがない国から問い合わせが入り、社内では「XXってどこだっけ?」「えーと、地中海の右あたり?ww」「いや、ロシアの横だろ」といった謎の会話が繰り広げられている。ちょうど先週はリトアニアとトルコからそれぞれ売りたいというメールを頂いたところである。

まぁこのあたりの話は近日しっかりとまとめるとして、とにかく小ロット多品種生産がやりやすくなり、Webでの情報発信のみでグローバルな販売ができる仕組みが整ってきたというわけ。そうなると、あとは初期の開発費・製造費のリスクを誰がどう持つのか、という課題だけになる。そこに今流行のクラウドファンディングが最後のピースとしてパチリとはまったというわけである。

普通のビジネス雑誌だとここまでで『さぁどんな面白い商品が出てくるのか?』で終わってしまうのだが、アイディアを細かい仕様に落とせる人、試作機を作るところまで進められる人というのはそれほど多くはない。さらに、ある程度の金が集まったからといって、小ロットで量産機を作ることができる人や会社というのはこれまたレアである。さらにさらに、出来上がった製品を情報発信して世界で売っていける人や会社というのは輪をかけて少ない。

仕組み、お膳立ては完全に整ったというのに、新しい仕組みゆえにその膳を食らうに相応しい人がいない、という状況なのである。そこで大学×小ロット量産・世界で売る企業という組み合わせでまずは実例を作ってやろうじゃないかというのがイーテルミン・プロジェクトの陣容、塚田先生×Cerevoというわけだ。

注意点

このやりかたで難しいのは、クラウドファンディングに載せる前の段階で製造・販売する会社と綿密な調整を行うことである。すなわち試作機ができて、クラウドファンディングに幾らの価格で載せようか、どんな外装形状で載せようか、ということを考えている時点で、量産バージョンを作る予定の企業を見つけておいて、いったいどれぐらいの費用で開発できるのか、生産したら1台幾らになるのか、利益分配をどうするのか、といった話をすすめておく必要があるということだ。実際に量産品を設計・開発して量産を行い、流通に載せたことがある会社や個人でなければ量産品の設計事情がわからないし、何といっても価格を決めることができない。MOQ*1はいくつで製造してくれるのか、xxx台で製造したらどれぐらいの価格感になるのか、だからこういう素材を使うべきだ、あとこの部分の形状は何度傾けるべきだ...etc といった山のような議論・提案・調整を経てはじめて、価格とおおまかな形状が決まる。関連法規(PSE等)もあるし、PL保険なども含めた様々なリスクヘッジなんかも忘れてはいけない。これらも必要経費に加えなければプロジェクトのどこかで歪がおきるか、最悪破綻する。

だが、経験豊富な小ロット量産品スペシャリストがいる会社であれば、前述した『山のような議論・提案』が数日で済んでしまう。奢るわけではないが、今回のイーテルミンのディスカッションも3回ぐらいで済んでしまったのだから。勿論これは塚田先生がCerevoの量産に向けたコメントを真摯に聞いてくださり、仕様の調整などに手早く合意してくださったからなのだが。

おわりに

若い学生さんや研究員さんの柔らかい頭でひねり出した商品、最先端の研究内容が詰められた商品などが世に出てくることはいちユーザーとしても素晴らしいことだ。よくわからないけどあの仕様にしとけばこの層に売れるだろう的な商品を仕方のない消去法でむりやり買わされることも減るだろう。

コラボ一発目の題材として、イーテルミンはちょっとイロモノに走りすぎたかなぁという思いがなくもないが、宴会での一芸や、プレゼントにちょうどいい一品になるかとは思う。そして何よりも、日本の産学連携における画期的な1歩を実例として作り上げられるかどうか? が残り約75万円が集まるかどうか、という1点に掛かっている。

イーテルミン欲しいな!という方はもちろん、この取り組みを応援していきたいという方、この取り組みが成功してイーテルミンが商品化され世界で売られるようになったら成功事例としてうまく仕事や研究に使えそうだという方も、ご支援のほどよろしくお願いいたします。


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*1:Minimum Order Qty, 最低発注数量