P2Pテレビ配信「Zattoo」のSimple is best戦略は今後も競争力を維持できるのか!?

Overview

関係者筋からZattoo*1のアカウントを頂き、レビューする機会に恵まれた。ご存じない方にZattooの概要を説明しておくと、SkypeのようにP2PでTV番組を配信する海外のサービスで、QVGA程度の画質のTV番組を実に45チャンネル以上*2配信している。放送されているコンテンツは、日本で言うところの地上波放送にあたるメジャーな放送が中心。当然権利処理はきちんと行われており、BBC World newsやアルジャジーラ(英語版)などを楽しむことができる。リアルタイム放送から数秒〜10秒程度の遅れで配信され、P2P型の弱点でもあるチャンネル切り替え時間も10秒以内と高速だ。

Joostとの違いは?

最近この手のサービスは海外でいくつも立ち上がりつつあるのだが、Zattooはとにかく「Easy to use」にこだわったSimpleさが売りだ。

日本でもお馴染みJoostとの一番の違いは、VODではなく放送のストリーミング受信であること。簡単に言えば番組単位で選べるのがJoost、チャンネルを選んで"今"放送されている番組を楽しむのがZattooだ。そして、視聴用専用クライアントソフトが重いのがJoost、バカっ軽いのが Zattoo。Coolだが慣れが必要なユーザーインタフェースなのがJoostで、古典的で芸がないものの誰でもすぐにわかるUIを採択したのが Zattoo。さらに、初回起動時に全画面表示を強制されるのがJoost、ウィンドゥ表示がDefaultなのがZattooである。

Joostギークの間では話題をさらったが、直感的にはZattooのほうが一般受けしやすく、ユーザーの「今現在の」ニーズをしっかりと掴んでいるなぁという印象を受けた。ともすれば斬新なUI、斬新な機能を売りにしたくなりがちなソフトウェア&ネットサービス業界において、Zattooの『マーケットとユーザーを冷静に見つめなおして現時点でもっとも受け入れられやすいものを作る』という姿勢から学ぶべきことは多そうだ。

ファウンダーでCTOのSugih 氏にお話を伺ったところによると、やはりEasy to useの観点から徹底的にUIをシンプルにし、低スペックのマシンでも動作するように作ることで、マルチタスキングのニーズを狙った、という。マルチタスキングってのは日本語でいうところの「ながら見」を指す言葉で、PCでブラウジングだの何だのとやりながら小さなウィンドゥでTVを流しておくような使い方のことだ。昨今北米の方と話をしていると、PCを触りながらPCの上でTV番組配信サービスを流しっぱなしにしておく需要が日本に比べて多いように感じることも付け加えておきたい。

大変便利な「ながら見」サービスなのでぜひとも日本のTVも流してもらいたいのだが、Closedかつネット配信がお嫌いな日本のTV業界がOKを出してくれるのは、はるか遠い未来の話なのだろう...。

マーケットにおける位置づけ

このように「パソコンを使ってネット経由で見るテレビ」としてこれ以上ないほど完成されたシステムではあるが、放送と同じコンテンツをただ流すというTVと全く変わらないユーザーエクスペリエンスを提供するサービスだけに、直接の競合相手がTVになってしまうというのがZattooの今後辛いところ。

日本のようにたった1万円でUSB接続のワンセグチューナーが買えてしまうマーケットでは少々分が悪い戦いを強いられるかもしれないし、ほとんどのPCにTVチューナーが内蔵されてしまうような時期が来れば、TV電波を受信しづらい環境での使い勝手ぐらいしか差別化要素がなくなってしまう。

今後Zattooがどういった方向にビジネスを展開されるのかはわからないが、TVとの真っ向勝負この先ジリ貧にならぬよう、ネット経由番組受信ならではの差別化要素をどう入れていくかが鍵になってきくるのではないだろうか。

おまけ

クライアントの軽さという意味では、Joostが使い物にならなかったPentiumM 1Ghzを搭載したノートPC*3でも軽々と動作したことを報告しておく。

zattoo screen shot ←Zattoo視聴中

*1:ざぁとぅー と発音。中国語発音すると ざんとぅー みたいな感じらしい

*2:スイス版の場合。国によって視聴可能なCH数は異なる

*3:グラフィックチップはintel 915オンボード