アメリカで電子機器を販売するためにやったことまとめ 〜2/1から米国でLiveShellの販売を開始〜

シリコンバレーベンチャーマンセーみたいな風潮が好きだの嫌いだの、アメリカに行って起業みたいなのがいいだのわるいだの、グローバルに通じるサービスだのどーなどまぁ連日アメリカ×ベンチャー×日本みたいなワードで盛り上がってるのを横目に、Cerevoは粛々と日本発テク系スタートアップとしてUSAでもモノ売るように動いてて、1月のCESで展示やって、2月からLiveShellを販売開始しましたよと。

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んでまぁ、思った以上に「アメリカでモノ売るにはどーすりゃいいんだ?」って情報が転がってないので、これから起業するなり今すでに立ち上げ済みの企業でアメリカ向けにモノ出荷しようと思ったらどーしたらいいの?って人も多いだろうからやったことを簡単にまとめてみる。

製造段階/開発段階でやったこと

  • FCC取得
    • EMC対策としてのFCC
      • FCCには2種類あって、EMC規程としてのFCCと電波利用製品としてのFCC。前者は微弱な電磁波みたいなもので、アナログテレビと一緒のコンセントに挿したらテレビの映像が乱れる機器とかがたまにあるんだけど、ああいうのを規制する仕組み。日本ではこれがVCCIといって任意なので認証取らなくても売って良いのだけれど、アメリカではNG。他の機器に変な影響を与えたりしませんよという証明を取らないといけないので、これを取る。どうやって取るかというと、そもそも設計段階でそういった毒電波を出さないように回路設計・アートワーク・メカ設計をきちんとしておくというのが大前提。外部の電気屋を使うときは、FCCクラスBを取れるような設計とすること、みたいな仕様書を最初から定義して、試験に落ちたら設計瑕疵じゃないの?と交渉できるような契約書・発注書にするよ、と最初から話しておけばシンプル。まぁ飲んでもらえるかどうかはさておき、マストなんだね、というのが最初から通じていると時間も金も節約できる。
      • と、やっておけばすんなりいくだろうと思っていたら、FCCクラスAは通るけどクラスBのEMC試験をどーしても通らず、日本での発売はすでに終わっているんであとはFCCに書類出せば終わりという状況だったはずなのにもしや基板改版をして追加開発費投入しないといけないか、どうか?というところまで追い込まれてばたばたやって @boonies が焦燥しつつあれこれやってくれた結果何とか通ったというハプニングがあった。こういうのがあるから認証系は怖いんだよな....と。
    • 電波法?対策としてのFCC
      • 前述のEMCとは別に、積極的に電波を出し受けするような機器はFCCの中での日本でいう電波法にあたる部分で問題ありませんよーという認証を取らないといけない。無線LANや3Gなんかを使う機械の場合で、LiveShellは無線LAN搭載しているのでここに該当。これ、設計がシビアでミスれば試験通らないばかりか性能が出なかったりとやばい部分なので、CerevoではアリモノのWiFiモジュールを活用する方法を取った。既にFCC/CE(ヨーロッパの規格)を取得済みのUSB接続型WiFiドングルを仕入れてきて添付する、という手だ。LiveShellのWiFiモジュールがどこかで見たような形をしているのも、取り外しできるのも、このためである。スタートアップは端折れるところはとことん端折ってコストだの手間だのを削っていく。
  • ACアダプタのUL/cUL取得
    • ACアダプタを使う機器は、ACアダプタがUL認証を通っていないと売れない。厳密にはアメリカ全土でULがマストというわけではないのだが、州によってマストだったり、特定地方にてマストだったりするため全米の誰が使うかわからない状況では「必須である」と言って差し支えないだろう。カリフォルニア州は特に厳しい制限(カリフォルニア州エネルギー規制)をかけているので、それらの制限をクリアするようなACアダプターを調達する。これは別に開発するわけではないので、調達時にちゃんと証書を提出してもらってUL取れてるよね? とCheckすればOK。
  • 英語版パッケージの制作
    • 当たり前だけれどちゃんと制作。ネイティブイングリッシュスピーカーによるProof reading(推敲)をきちんと入れ、違和感ない文章となるようにした。ベースの文章は日本側で制作。お金があればアメリカ人デザイナーにデザインさせなおすんだけど、さすがにスタートアップでそんなことやってられないので日本人デザイナーの @microcoppepan ががんばった
  • 英語版マニュアルと保証規定の策定
    • アメリカは訴訟社会なんでこのへんはちゃんとしないとね、ということでちょっと高いがアメリカの弁護士に保証規定はちゃんと見てもらって英語版ペーパーマニュアルと保証書を作成。ペーパーマニュアルはパッケージと同じく日本で作ってネイティブスピーカーの推敲を受けるという形にした。オンラインマニュアルも基本的には同じアプローチだけれど日本人英語であってもいいから分量を充実させよう、という方向にした。オンラインマニュアルはあとでいくらでも修正がきくので。
    • 悩ましかったのは用語の選定。Proof readingと翻訳あわせてお願いしたら「有線LAN」が「Wired LAN」とかに翻訳されて帰ってきちゃって、いやいやそこは「Ethernet」だろって話なんだけど普通の翻訳やる人はそのへんわかんないよなーと。
    • パッケージもそうなのだけれど、紙はスペースが有限。んでもって日本語は漢字というスーパースペシャルなツールが使えるのでたった4バイト(漢字2文字)に複雑な意味を込めることができる。そんな日本語ベースのパッケージや紙マニュアルを英語化しましょうとやると、スペースが全く足りない。結果、日本語版より若干情報量を落としてフォントサイズも小さくして何とか詰め込むことができたが、今度やるなら先に英語版作ったほうがいいなぁこりゃ、と思った。

開発とは別で手配・調整したもの

  • 輸出入手続き
    • これは専門外だしコアコンピタンスではないのでLiveShellの製造委託先に丸投げ。Cerevoは一切ケアしないよ、という方向。......の、つもりだったんだけど日本への輸入時はお任せできたんだけどアメリカへの輸入に際しては結局あの書類も出さなきゃ、この書類も出さなきゃというのでドタバタ。まぁ基本的には税関から出せと言われた書類を作って送って解決。
  • Liability insuranceの契約
    • いわゆる日本でいう製造物責任保険。USはUSで掛けます。特に日本以上に訴訟国家のアメリカではマスト。というか日本でもPL法で企業の製造物責任が求められるようになったので日本でもマストなんだけれども。日本の保険会社にて海外での販売時にも保険が有効となるように契約することもできるんですが割高。今回はUSA側にて契約しました。参考までに、USA側で契約すると2倍以上の保障がついている保険商品にて、価格は1/2以下でした。
  • 米国法人登記と住所・電話番号・TIN・USA側銀行口座の準備 ※マストではないけれども僕らは実施した
    • 米国法人を作らずに販売することも勿論可能なのですが、今回は諸事情あって米国法人としてCerevo USA LLCをワシントン州に登記してアメリカ国内にて納税を行えるような体制を作った。※TINはTaxpayer Identification Numbersの略
    • 米国法人を作っておくと色々と楽。維持コストも何やかや入れても年間10万円以下程度なので、あると便利。今回は半年契約で4万円ぐらいの、住所だけ貸してくれるレンタルオフィスを利用することでコストセーブ。電話番号はGoogle voiceを使えばタダでGETできる。固定電話のように見える番号なので、外からみるときちんとしているように見える。日本でいう東京03が手にはいる、的な感覚。
    • 住所と法人登記があれば米国で銀行口座を開設できる。米国での取引時に毎回日本の銀行口座から送金していたら振込手数料がばかにならないというのもあるし、アメリカの口座がないと利用できないサービス、取引できないところなども出てくる。住所、電話番号、銀行口座、TINが揃えば外見だけは純然たる米国企業として振る舞えるしサービスなども通常の米国企業と同様に受けることができるので、不自由することがほぼない。また、商品を購入してくださるアメリカのお客様から見ても『怪しい輸入商品』ではなく『まがりなりにも米国に拠点を持ってビジネスをやっている会社の商品』として見えるので商品購入時にいらぬ不安を与えなくてすむ、というのも大きい。
  • ユーザーサポート体制の構築
    • これはメールサポートが現実的だろうということで、日本側からメールサポートを実施することで解決。一定件数を超えてオーバーフローしそうになったら一次受けをアメリカの会社に委託すればいいや、とした。結果的によかったなぁと思うのは、一次受けを面倒だけれど自分たちでやることで、アメリカの顧客がどういった悩みをかかえていて、どんな商品の使い方をしているかというのが直につたわってきたこと。短期的でも自前でやる、ということのメリットだろうがものすごいプロモ費を突っ込んで垂直立ち上げをやるような場合はやめたほうがいいと思うw
    • CESで発表した直後はサポート業務やってくれている @mhr のメールボックスのほとんどが英文メールのSubjectで埋まる事件などが発生して嬉しい悲鳴となったりしてどたばたはしたのだがw
  • RMA体制の構築
    • 不良品は発生しないのがベストだけれど、量産される工業製品である以上ゼロにすることはできない。そこで、メールサポートにて不良品かどうかの判定を行い、これは不良品の可能性大となったらある住所に送付すると新品を送り返してもらう、という仕組みを構築。企業でやってくれている会社もたくさんある。今回はUS市場が立ち上がるまでは内輪でやりましょうということでCerevo USAの仕事をお願いしている方に実際のオペレーションをお任せすることにした。
    • そういうわけなので念のためアメリカへの出荷台数の2-3%程度の個体はRMAオペレーションをやる拠点に配送してストック。勿論不良率が1%を超えたりなんてしないように設計しているので、余りの品はRMA倉庫(RMA拠点)から販促機として販社さんとかへ出荷することで数を調整することにした。
  • Amazon USAとの契約、FBAの利用
    • アメリカ国内でECの仕組みをゼロから構築とかやってられないのでAmazon.comのFBAサービスを利用することにした
    • FBAサービスってのは国内でもやっているサービスで、Amazonの倉庫にモノ(LiveShell)を送りつけてオンライン上のコントロールパネルで値段やら商品説明やら記入すると、Amazon.comが発送/決済を全て代行してくれてお急ぎ便も使えるという便利なサービス。利用料はざっと8%ぐらい(LiveShellの価格の場合,送料込み)と大変お得で、楽。
    • 全てオンラインで済むのでAmazon.com担当者と話すことすらない。フォームに会社情報やTax information numberを入力して進めてゆけば終了。その後、Amazon,comが指定する倉庫住所に、指定されたラベルを貼りつけてLiveShellを送りつければOK。

まとめと謝辞

以上、かな? まとめると項目少ないんだけど、実際やるとなると法人登記関係と銀行口座関係が大変だった。お金はあまりかかっておらず、登記関係&保証書の推敲を弁護士に頼んだのでそこで30〜40万円ぐらい発生したのみである*1。素晴らしきことは、インターネットとオンラインサービスのお陰で、従来であれば事務方の社員が1-2名しかいないようなスタートアップでもアメリカにてモノを売るということが無理せず現実的にできるような時代になったということだ。Amazon FBAの存在は大きいし、メールやオンラインマニュアルによるユーザーサポート業務もしかり。アメリカ側で手伝ってくださる方とSkypeで無料にて何時間も電話会議ができることもそうだし、Google Voiceで固定電話番号を無料でGETできることもそうだ。無理にアメリカに行こうという話をするつもりはないが、日本で1日1個売れる商品を2カ国に展開すれば2倍売れるようになるかもしれない。3カ国にすれば3倍売れるようになるかもしれない。チャレンジしてみるのは悪くないのではなかろうか。

とまぁやってしまったあとなので色々薀蓄を垂れることができているわけだが、試行錯誤しつつも何とかきちんと発売にこぎつけることができたのは、Cerevoの社員が頑張ってくれたことに加え、元マイクロソフトの古川 享さんから良き支援者をご紹介頂いたから、という要素がめちゃくちゃ大きかった。アメリカでの販売を考え始めた2011年頭に『誰かアメリカに住んでいてCerevoアメリカ展開を手伝ってくださるいい人いませんか、紹介してください!』という無茶振りをしたところ、某有名国際企業の立ち上げなどに関られた経験豊富な方をご紹介頂くことができたのである。古川さん、ありがとうございました。

おまけ

CESでContour社のブースの端っこを間借りして展示したら、何が起きたか? という話を少しだけしておきたい。これまで述べてきたように、英語ドキュメント作ってアメリカの法規制クリアして売るってだけでも結構たいへんだなーと思ってCESに出展してみたら、アメリカ以外の実に12カ国から『xx国にてLiveShell売りたいんだけど』という問い合わせがマシンガンのように来ちゃったのである。アメリカすげーというつもりは全くないけれど、英語すげー、というのは間違いないなと。


.....で、南アフリカ*2で売るには一体何の規制をどうクリアしたらいいんでしょ?w
苦難の日々はまだまだ続きそう、である。

*1:Liability insuranceの$2,000/年はここから発生していくけど

*2:本当に南アフリカの家電ディストリビューターの方からコンタクトがあって、売りたいというお話を頂いた