家庭用サラウンドスピーカーの現状と課題 & NIRO Q: のレビュー
基本知識
意外に知らない人もいるようなので、まず5.1chサラウンドシステムってぇもんについて簡単に。映画館で体感するような「後ろや横からも音が聞こえてきて、雨のシーンなんかでは本当に自分が雨の中にいるような錯覚を覚えるような音響」を家庭で楽しむためのデバイス。6つのスピーカーを使って再現する5.1chという仕組みが一般的。DVDやブルーレイで発売されている映画作品をこのサラウンドシステムで再生すると、映画館のような迫力ある音を楽しめる。そんなシステムが今や2〜3万円程度から手にはいる。
じゃぁ映画なんて見ないしレンタルもしない人には関係ないのかというと、そうでもない。地上波デジタル放送、BSデジタル放送などでは普通のテレビ番組がサラウンド対応で放送されはじめているからだ。まだまだ映画・スポーツ・音楽番組が中心であり、アニメがほとんどないのは残念でならないが*1。テレビすら見ないぜって人でも、据え置き型ゲーム機はWii,XBOX,PS3すべてサラウンド対応である。サラウンド対応ゲームを遊べば没入度がメチャクチャ上がることは間違いない。
とまぁこれだけ楽しめて2〜3万円なら安いモンだろう。ただ、値段だけではない課題があって普及が進んでいない。1つは操作性の問題。テレビのリモコンとスピーカーのリモコンをそれぞれ手もとにおいて、テレビの操作はテレビリモコンで、音量の調整はスピーカーリモコンで...というのは慣れてしまえばどーってことはないのだが、導入前にはどうしても抵抗がある。もう1つは設置性の問題。前に4本、後ろに2本のスピーカーを設置しなければいけない本来の5.1chシステムでは後ろのスピーカーをどこにどう置くか? また、そこまでの配線(スピーカーケーブル)をどう取り回すかが課題であった。日本の家庭でよく見る「部屋の角に斜めにテレビを置く」というスタイルではリアスピーカーの配置が物理的に難しい。そうでない家庭であっても、賃貸の家では天井や壁からスピーカーを吊り下げるわけにもいかず、かといってスピーカー台を置いてソファの左右に設置...なんて置きかたをすると、配線が床を這うことになり掃除担当の家族によるクレームの嵐にさらされるのは必至。
前者の課題についてはテレビ側のリモコンでスピーカー含めて操作できる”リンク”機能が普及したことで解決された。昨年からこの夏にかけて、ビエラリンクやアクオスリンクに対応したPanasonic,Sharp純正のサラウンドスピーカー埋め込み型テレビ台がバカ売れしたことは記憶に新しい。後者の設置性については、リアスピーカーを無線接続にするアイディアやリアスピーカーを横長の1台にするアイディアなどが提案され製品化されたが、ぱっとせず。で、今主流のアプローチが『5つ以上のスピーカーを埋め込んだ特殊なスピーカーユニットを1〜2個、テレビの前に設置するだけで、なぜか後ろからも音が聞こえてくる』というタイプの商品。
このトレンドに先鞭をつけたのがNiro1.com。元ナカミチのボスである中道二郎氏が設立した会社だ。家庭用ではNIRO400/NIRO600という製品が2004年に発売され、フロントに設置した1個のスピーカー(+サブウーファ)だけで5.1chサラウンドを実現する仕組みを搭載して設置製の課題を解決。続いてYAMAHAがサウンドプロジェクターという商品名で同様の商品をリリース。もっとも、YAMAHAの商品はNiro1.comの商品とは似て非なる仕組みで動作しており*2、部屋の形やインテリアの置きかた・カーテンの位置などの制限が強い商品ではあったが。
「設置が楽なのにホンモノのサラウンドが楽しめる」ということで話題になり、DENONなども参入。特にYAMAHAが継続して力をいれ、設置性の課題をモデルチェンジ毎に改善し、今日に至っている。そんな中、老舗Niro1.comが新製品 NIRO Q: を発売。上下にわかれた2個のフロント・スピーカーで5.1chを実現するという仕組みである。
あともう1つ。ブルーレイディスクが普及しはじめて、サラウンドシステムもブルーレイ時代に対応しはじめた。これまで光デジタルケーブル(SPDIF)で接続していたものをHDMI接続に切り替え、ドルビーデジタルやdtsという規格で転送していた音データをドルビーTrueHDやdts-HD、リニアPCMサラウンドといった規格で転送するようになった。これら新規格は転送ビットレートが上がり、音も良くなっている。 ※HDMI端子がついているからといってドルビーTrueHDやdts-HDに対応しているとは限らないので注意
これまでの流れ
イベント会場で知ったQ:の製品コンセプト
- 映画のときだけ使う、といった製品ではなくTVのスピーカーを代替するものを目指して開発。
- ”疲れない”音を作ることが目標
- 簡単設置できる場所を取らないシステムで高音質を目指した
- 独立型5.1ch(5本がわかれているタイプ)ではBEST視聴ポジションが1箇所(1点)しかないのに対し、サラウンド効果が得られる範囲が広い。ファミリーやカップルで視聴する際にも複数人がBESTコンディションで視聴できる
内容物・開梱・設置
箱のサイズや同梱物は本質思考道場さんのレビューが詳しいのでこちらに譲る。
試用してみた感想
HRTF方式の課題を見事にクリアしており、びっくりするほどサラウンド効果を受けることができるエリアが広い。テレビ(スピーカ)から2m離れたソファにおいて、大人3人分の幅は優に効果範囲内。また、値段が高いだけあってサブウーファの出力に余力があり、広い部屋でも十分な低音を響かせることができる。20畳のリビングで試用してみたが、パワー不足はまったく感じなかった。
しかし、課題も多い。センタースピーカーが独立していないためか、設置済みの独立型5.1chシステム(ONKYO BASE-V20X)と比べると映画などのセリフがBGMと混じってしまって聞こえにくい。といってもテレビのスピーカーで聞くよりははるかに聞きやすいのだが。音楽ソースを再生してみてわかったのだが、解像感?ハッキリ感?が高音域において不足している印象を受けた。ガラスが割れて飛び散るようなシーンにおいて、今にも刺さりそうな”音の感触”が足りないとでも言おうか。萌えアニメでもこの傾向が目立った。萌え系声優(戸松遥とか)のキンキン声がどうしてもV20X比でクリアに聞こえない。むぅ。疲れない音を目指したと聞いていたので、そのコンセプトの弊害かもしれない。
後方からの音も独立型5.1chに比べると弱い。飛行機がカメラ後方から前方に飛び去っていくシーンを想像してほしい。形容が難しいが、独立型5.1chでは後方10メートルぐらいから飛んでくる聞こえ方なのに対し、Niro Q:では後頭部から10センチ離れたところから飛んでくるイメージ、とでも言おうか。確かに後ろから音が聞こえているのだが、あまり距離感が沸かないのだ。もっとも人間の耳というものは後方から聞こえる音の位置をさほど正確に判断できるようにはなっていないのだが。
音楽ソースには向いていると感じた。映画ほどカリッカリの解像感が求められないからだろうか。程よくそれぞれのチャンネルの音がミックスされつつ、ステレオスピーカーにはない”音の広がり”が楽しめる。音楽DVDを買ってきて、ちゃんといすに座って「聞くゾォー」という感じで聞くにあたっては独立型5.1chにはかなわない。が、BGMをかけるスピーカーとしては独立型5.1ch以上に優秀だ。独立型5.1chだとリアスピーカー付近にいくとリア側の音ばかりが聞こえ、右スピーカー付近にいくと右側の音ばかりが聞こえる。その点Niro Q:ではサラウンド効果範囲内であればどこにいても同じように聞こえるし、効果範囲から離れても「少しはなれたところでモノラルスピーカーが鳴っている」ように感じるため、どこにいても違和感なく聞こえるのだ。これは普段テレビにつないでニュースやバラエティを流しつつ家事などをするというシチュエーションでも違和感がないということである。テレビのスピーカーの代替を目指したというNiro1.comの商品企画意図がばっちりはまっているなぁと感じるポイントだ。
まとめ
とにかく簡単に設置できて、テレビのスピーカーだけではデジタル放送やDVDの楽しみを3割以上損している! と言ってしまえるほど、レベルの高いサラウンド・サウンドを楽しむことができる。比べるのは酷なのかもしれないが、独立型5.1chと比較すると弱い部分が目立つのもまた事実。アンプ部が2〜3年前のスペックであることから、どうしても比較対象機種として他社の少し古いモデルを引き合いに出さざるをえなくなってしまう。DENON DHT-FS1などは構成的に近い製品だが、各社HDMI装備モデルが出てきたことで値崩れし、25,700円*3で購入することができてしまう。勿論FS1は入出力端子の数も少ないしサブウーファの出力も弱いのだが、Niro Q:の8万円という価格と比べてしまうとお買い得感が出てきてしまう。
ナカミチ・サウンドの大ファンという方なら即買い。そうでないなら、Blu-rayへの対応状況を理解し、独立型5.1chが本当に設置できないのかよく考えてみたうえで購入を検討してみることを薦めたい。Niro1.comの売りは『自宅で視聴ができるプログラム』を提供していることだが、他社の独立型5.1chと並べて比較視聴できる場所があるなら、そこへ行って試してから購入するというのがベターだろう。
いくつか気になった点は以下のとおり。
気に入らない点
- 2008年11月発売なのにHDMI端子がない = リニアPCM5.1chに対応していない、Dolby True HDやdts-HDに対応していない。のに、高い(8万8千円。Amazon商品券9000円がついてくるので実質7万9千円)
- ウーファーの音抜き穴が側面についている
- 前面とケーブルが出ている背面は当たり前として、右側の面をTV台などに密着させられないのは設置性という面からみると少々厳しい。TV台の右側に置けばいいじゃないかと言われればそれまでだが、右側に必ずしも置けるとは限らない。音抜き穴は前か後ろになるよう設計してほしかった。
- アンプ表示部においてDTS/PL2などの表示が小さい
- 2m離れるとまったく見えない。常に確認したい項目なので大きく表示してほしい
- TV・DVDレコーダーなどとの連動機能がない
- 独立型5.1chのシステムであるONKYO BASE-V20Xと比較して、ほとんど気にならないが、比べるとやっぱり...というレベルで以下の差異がある
- 高音のキレがいまいち
- 映画などでセリフがクリアに聞こえない
- 後方への音の広がりが弱い
気に入った点
- 取付金具が多数入っている
- WiiのセンサーバーをTV上部に付けていてもOK
- 付属取付金具のできがよく、TV上部にセンサーバーがある環境でも問題なく使える
- 色が2色ある(白と黒)
- 私の友人知人では白いテレビ台を買う人が結構多い。黒より多いぐらい。自宅のTV台も近日白く塗ってしまおうと思っている。そんな中、サラウンドシステムはブラック・シルバー・ウッドいずれか1色しかラインナップされていないものが多い。二郎さん曰く『白は店頭Demo用。見栄えするからねぇ〜』なんて言っておられたが、白い部屋に白いTV台って組み合わせは意外に多いはず。ただ1点残念なのは、上下スピーカーの色が選べないこと。上部スピーカーはテレビと一体化して見えるので黒(最近は黒TVが流行りだ)、下部スピーカー・アンプ・サブウーファはTV 台と一体化して見えるので白をセレクト、ということができればBESTだったのだが。ネット直販というNIROの販売形態であればこういった組み合わせ変更も簡単にできると推測されるので、対応をお願いしたいところだ。
- BGM的に鳴らしておく際、マルチチャンネルスピーカー特有の違和感がない
- ベスト視聴ポジジョンが広く、家族や友人と映画を見る、といったシチュエーションに最適(独立型5.1chよりも向いている)
おまけ
スピーカーシステムの比較をするときにいつも使うDVDは「dts demonstration DVD」シリーズ。dtsの効果が一番よくわかるさまざまなDemo映像が収録されているDVDディスクだ。その昔はdtsリエゾンオフィス東京が通販(1500円ぐらい)していたのだが、最近ではAV系雑誌の付録についていたりする。映画1本のなかでサラウンド効果を体感できるシーンはある程度限られているが、このデモディスクにはそういった音的に「オイシイ」ところばかりが収録されている。友人宅や販売店に持っていって視聴させてもらう際、1枚持っておくと便利である。
参考:http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010903/dts.htm
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